メールの受信を知らせるバイブに携帯を開く。

先程返信したメールに対する返信かと思えば見知らぬメルアドで、更に言えばメルマガでもなさそうで。


「…」


首を傾げながらメールを開いた瞬間。思わず携帯を投げ捨てた。


「え、どうしたの?」

「…いえ、なんでもないです」


投げ捨てた携帯を拾いもう一度画面を見る。


sub:神
本文:登録よろしく(・言・)


何でアドレス知ってるのかとか自称なりとも神が携帯かよとか顔文字間違ってるとか
取りあえずツッコミどころが満載なんだけれど取りあえず


「…うざ」


ビクッ
視界の端で猿飛佐助が震えた気がした。


はぁぁぁあ、と大きなため息を吐き携帯を閉じる。


「…猿飛様」

「……何?」

「雇い主を本気で殴りたいって思ったこと、ありますか?」

「正直、あるよ」


あーあ。
本気で殴りたい。


「…何物騒な話してんだ」


ガラッと音を立て庭へと続くガラス戸が開いた。犯人は勿論片倉小十郎だ。


「片倉様。庭はどうでした?」

この家の庭はなかなかに広い。田舎というのもあるのだろう。桜や柿、梅の木もあり初夏である今も木陰が多い。


「いや…そこの裏にある畑は、お前のか」


そこ、と指差すのは庭の隅に置かれた物置小屋。
その裏には家庭菜園と言うには立派すぎる程の畑がある。


「そうですよ」

「…何も作らねぇのか」

「作りたいのは山々ですが…情けないことに知識もなければ人手もなくて何も出来てないんです」


畑仕事は嫌いじゃない。
小さい頃から土いじりは好きだったし、野菜や花を育てるのは好きだった。
ただ手伝い程度にしかやってなかったからか知識は殆どなく、今まで一人だったからそこまで手が回ってなかったんだ。


「あー…あれだ、もし誰も管理する人間がいねぇって言うなら、俺がいじってもいいか」


少し照れくさそうにそう言う片倉小十郎。
な、なんだその仕草。可愛いじゃないか。
じゃなくて、


「よろしいのですか?」

「あぁ」

「よかったねー。右目の旦那の作る野菜は絶品って評判なんだよ」

「わぁ!茄子が食べたいです!」


ちゃっかりリクエストすれば「考えとく」とのこと。
そうと決まれば早速行動だ。

ガラス戸の外に置かれたサンダルを履き、物置小屋へ向かう。

その中には鍬や鎌などの農具が少しだけ入っている。


「んー…」

「どうした」

「道具が足りませんねぇ。
種や苗も欲しいし、買い出しに行きましょうか」


今からならまだ夏野菜間に合うよな…茄子とか南瓜とかトマトとか。


「野菜好きなのか」

「好きです。夏野菜は特に大好きなんです」


更に言えば茄子が一番好きだ。
あぁ、ズッキーニとかも作れるかな?

二人並んでリビングに戻ればまだ五人は眠ったままで、ちょうど猿飛佐助がブランケットからはみ出た真田幸村にブランケットをかけ直している所だった。
その表情がしょうがないな…とでも言いたげな、でも暖かいもので


「…お母さんみたい」


自然と口から出てしまった言葉に「やめてよ…」と本当に嫌そうに言うもんだからついつい笑ってしまった。


「そういや…お前の家族は?
ここに来て一度も会ってないが、もしかして…」

「いや、全員健在ですよ。
ただ一緒に住んでいないだけです。ここは、自称神が用意した家ですからねぇ」


だからそんな気まずそうな顔をしないで欲しい。


「そうか」

「寂しい?」


何か探るような猿飛佐助のその問いかけに笑みだけを返し気持ちよさそうに眠る夢吉を頭を撫でた。


「清々してますよ」


なんて、ね


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