ゆらゆらと体が揺れる
それが心地よくて身を任せる
ゲシッ
「起きろ」
「…おはようございます」
急激に意識を浮上させられた。
どうやらゆらゆらしてたのは長曾我部が私を起こそうと揺らしていたからで、それでも起きない私に毛利元就が蹴りを食らわしたらしい。
携帯で時間を見れば5時30分だった。学生時代は家から離れた高校に通っていたのでこの時間に起きていたが今となっては若干きつい。
「着替えたらすぐ朝食にしますね」
「焦らなくていいぜ?」
「早くせんか」
どうしてこう正反対なんだろうかこの二人は。
そして着替えると宣言したが出て行く気はないらしい。気にしないからいいけど。
Tシャツを被り体が見えない様に上手く浴衣を脱ぎ袖を通す。
ジャージを履いて殆ど意味を為していない浴衣を脱げば完璧だ。
「少しは恥じらいとかねぇのかよ…」
「残念ながら」
デジャヴを感じる会話だ。
「さ、行きましょうか」
階段を下り、洗面所で顔を洗いリビングへ行けば私達と慶次意外の全員は食事を済ましたのか各々好きなことをしている。
「おはようございます」
「おはよー」
「おはよう」
「あぁ」
真田幸村と伊達政宗から返事がないのはテレビに集中しているからだろう。
「ごめん慶次、すぐ朝食にするわ」
「いや、焦らなくていいよ!なんか手伝うか?」
「ん、いいや。昨日の内に大体準備しといたから」
昨日の夜作っておいた煮物と味噌汁を火にかけ温める間に卵を焼いていく。それにギョッとしている片倉小十郎と慶次に卵は庶民の味方、と教えれば信じられない、という顔をされた。
昨日の夕食の時に白米についておんなじような会話をしたばかりなのに。
焼きあがった卵焼きを食べやすい大きさに切って皿にのせ煮物と味噌汁を盛り付け完了。
手抜き?いやいやそんなことはないよ。うん。
誰に言い訳してるのだろう。
夢吉はバナナが気に入ったのかカウンターに置いてあったバナナを大切そうに抱えている。
…朝から癒されたわ。
「慶次、これ運んでもらっていい?」
「はいよ!」
「…お前らいつの間にそんな仲良くなったんだ?」
きょとんとする長曾我部に昨夜のやり取りを説明すれば自分も同い年だから敬語や敬称いらないということなのでお言葉に甘えることにした。
ついでだからと毛利元就に関してもそうすることなった。眉を顰めたもののその後小さく笑ったのを見逃さなかった私はからかってやろうとも思ったが面倒だからやめておこう。
朝食を無事に終わらせ時計を見ればまだ七時前。
食料は昨日冷蔵庫の限界に挑戦する位買ったからまだ平気だし他に特に買うものはないし…今日はとくにやることないか?
テレビを観ている七人を見やりながら今日の計画を立てる。
「あきら!チョコレートってなんだ?」
「南蛮の甘味だよ」
「甘味…!」
元親の言葉に返せば真田幸村が反応する。というか涎、と苦笑すれば気付いた猿飛佐助が呆れながら拭いていた。
「あきら、苺とはなんぞ」
「果物の一つ。赤くて甘酸っぱいやつ」
七人が見ているのはニュース番組、なのだけど今はスウィーツの特集をらしく特に幼児化組が釘付け状態だ。
「けぇき…」
「ぱふぇ…」
真田幸村と元親がテレビ画面を観たまま呟く。「佐助ぇ」
「何、旦那」
「それがし、けぇきが食べたいでござる…」
そんな真田幸村の言葉に猿飛佐助が口元を引き吊らせ、それからはぁ、とため息を吐いて私を見た。
「あきらちゃん」
「ケーキなら作れないこともないですが材料はありませんし私も上手く作る自信はないですしねぇ…後でお店で買ってきましょうか」
そう言えば真田幸村と元親は目に見えて喜び、伊達政宗と元就は僅かに目を輝かせ、慶次はにこにこと笑い猿飛佐助と片倉小十郎はそんな五人に呆れていた。
「ただし全員で行くのはお店に迷惑がかかりますし、買い出しは昨日お留守番して下さってたお三方だけでお願いします。
今見た中で気になるケーキはありましたか?」
一瞬昨日の買い出し組を留守番させることに不安を感じたら大丈夫だろう、と自分に言い聞かす。
「とは言っても、ねぇ」
苦笑する猿飛佐助にやっぱり苦笑で返し見ていた雑誌を七人に見せる。
ちょうどスウィーツ特集のページがあったし。
「ここが今日ケーキを買いに行く店です。
今日全部あるとは限りませんけど、一応参考になるとおもいます」
私が読んでたのは地元のオススメスポットが紹介されているローカル雑誌で、家の近所にあるケーキ屋もたまたま紹介…というか、特集が組まれていた。なんでも店長がかっこいいらしい。
「これがショートケーキ。ふわふわの生地に生クリームっていう…昨日体洗うときに出た泡みたいな甘い牛の乳を加工した物を塗って、さっき説明した苺をのっけてあるもので、こっちがチョコレートケーキ。ショートケーキに似ているけれど生地やクリームにもチョコが使われていて、」
一つ一つわかる範囲で説明していくが生憎ケーキ作りも殆どしたことがない私では上手い説明は出来ていない、はず。
だから、
「甘い物が苦手な方は居ますか?」
「苦手、じゃねぇがあまり好んで食わねぇな」
「洋菓子と和菓子ではまた甘さも違いますしねぇ…」
でも取りあえず苦手ではないならいい。片倉小十郎は一緒に買い出しに行くんだし。
「適当に買ってきて気になる物を回し食いすればいいですかねぇ」
それで次から気に入ったものを買えばいい。
「shoppingには何時いくんだ?」
「店が開くのが十時なのでそれくらいに家を出ましょうか。あの時計の短い針が10…てっぺんから左に二つ目、長い針がてっぺんを差した時です」
今はまだ七時半。まだまだ時間はある。
「それまでこの時代の文字なんか勉強してみませんか?」
そう言って私は紙とペンを取り出した
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