行きより静かな車内では猿飛佐助を除く武将達が眠りについており、車内は静寂に包まれていた。


「本当に、異世界なんだね」


ぽつりと呟く猿飛佐助をミラー越しに見る。


「私は皆様のことをよく知らないので少しお聞きしたいことがあるのですが」

「…何?」

「留守番組の方々は家を破壊してないでしょうか」


何となく片倉小十郎が居れば大丈夫な様な気もするが心配は心配だ。
物が壊れている位ならいい。家がどうにかなってたら…どうしようか。


「大丈夫じゃない?右目の旦那がいるし、不安要素の家の旦那や鬼の旦那はここにいるから」

「…あぁ、そういう分け方だったんですね。このメンバー」


めんばぁ?と首を傾げる猿飛佐助に面子、と返せば「これから住む家壊されたら困るから」と苦笑しながら返された。
心から感謝します。その分私も疲れたけど。

そうこうしている内に車は我が家に到着し、幼児化武将達を起こして荷物を全部下ろした。

そして玄関の戸を開ける前に深呼吸。


「(何も壊れていませんように)」


ガラッと戸を開ける。
一見何も変わってない。

一息吐きながら家の中に入り全員入った所で施錠。田舎とはいえ防犯はしっかりしなくてはならない。

重い荷物は四人が持っていったため私は軽い。


「あ、これどうすればいい?」


リビングからひょこっと顔を出した猿飛佐助の手にはスーパーの袋。野菜や飲み物の入った袋だ。
私は自分の持っていた魚や乾麺が入った袋をキッチンのカウンターに置いて猿飛佐助が持ってきた袋を受け取った。


「食品はこの中に入れちゃいます」


冷蔵庫のドアを開き買ってきたものを詰めていく。
野菜は冷蔵庫の野菜室と床下にある暗室に分け入れ、お酒も今日飲む分以外はそこに入れてしまう。


「ここにある物は自由に使って下さって結構ですから」


スーパーの袋を小さく畳みながらそう告げそう言えば他のみんなは?と首を傾げれば買ってきた洋服を広げてる、とのこと。


「この部屋、半分だけ畳があるんだね」

「そうですねぇ。和室の方は掘り炬燵になっているんですよ」

「掘り炬燵?」


炬燵って何時代からだっけ?


「寒い時期までみなさんがいたら出しましょうか」


普段は畳を敷いて隠れるようになっている。
よくよく考えなくてもこの家は豪勢だ。


「さ、皆さんのところに行きますか」


どうやらみんな最初の客間にいるらしい。
洋服の試着をしてくれてるみたいだ。


「わぁ」


客間に入ってびっくり。思わず感嘆の声があがる。


「どうだい?あきらちゃん」

「お似合いですよ。でも、ボタンは閉めましょうか」


やり方がわからなかったのだろう。開いたままのボタンを閉めていく。
そのやり方を見ながら真似をする片倉小十郎や毛利元就がちょっとだけ微笑ましかった。


「(そう言えば、初めて名前呼ばれたかも)」


ずっと「ねぇ」や「おい」もしくは一名限定で「貴様」だったからむずかゆい。


「皆さん大きさは大丈夫みたいですね」


ファスナーを咬ませていた長曾我部の世話をしながら部屋を見渡す。

サイズは大丈夫そうだし大丈夫か。


「なんか鳴ってねぇか?」


片倉小十郎の言葉に耳を澄ませば確かに聞こえる。というか私の携帯だ。
携帯をポケットから取り出し訝しむ武将達を余所に電話に出る。「もしもし?」

『あ、俺だけど』


電話越しに聞こえたのは聞き覚えのある中性的な声。


「…おれおれ詐欺?」

『違う。神だよ神。神様』

「あぁ、厨二病なあの人」


なんか怒ってる?
いいえ?
…説明足りなかった?
ええ。本当に


「それで、何の用ですか?」

『冷たいな、雇い主に対して』

「頷いてもないのに強制的に雇用しといて雇い主も何もないです」


というか、そうか。雇い主になるのか、あの人。あ、人じゃないや。


『減給するぞ』

「七人放り出しますよ」

『悪かった』


折れるの早いですよ
だって困るもん
もんとかキモイです


『で、用件なんだけどさ。七人の武器はこっちで取り上げてるから安心してや』

「それだけですか?」

『だからつめてぇよ。
なんか質問とか受けとこうと思ってよ』


質問…
と言ってもなぁ。


「皆さんがこっちにいる期間は?」

『未定』

「なんで毛利さんが小さくなってやがるんですか」

『手違い』

「神様に性別あるんですか」

『ない』


じゃぁ次私の前に現れるとき男の姿で来て下さい
なんでだ?
一発殴る
……
女性の姿だったらセクハラします


「それ位ですかね」

『ま、なんかあったらこの番号に掛ければ十回に一回位繋がるから』

「あんま宛てしないどきます」


じゃ、と言ってきれる電話。


「それは何?」

「これですか?
これは携帯電話って言って持ち歩ける電話ですよ」

「相手はGodとか言うやつか」

「はい」


内容からわかったのだろう。
多分、猿飛佐助には会話ただ漏れだと思う。
忍って耳良さそうだし。

聞かれて困る内容でもないしどうでもいい。


「と、もうこんな時間ですか。
前田さん、長曾我部さん、毛利さんはすぐ食事にしますね」

「俺も行く」

「俺様もー」


猿飛佐助と片倉小十郎を連れてキッチンへ向かう。
二人の後ろを真田幸村と伊達政宗が付いてきて、さらにその後を「貴様が妙なものを入れぬか見ていてやろうぞ」と悪態を吐きながらが毛利元就が、そんな毛利元就を咎めながら長曾我部が、一人は寂しいと前田慶次まで付いてきたので結局全員リビングへ来たのだが。

キッチンまでついて来そうだったので毛利元就と長曾我部を一人ずつ抱き上げカウンターに座らせ(その際毛利元就に鉄拳をいただいた)それを見て前田慶次が真田幸村を座らせ伊達政宗は自ら椅子によじ登っていた。

エプロンをつけ髪を結い、手を洗ってから冷蔵庫から必要なものを取り出してからお米を研いで炊飯器のスイッチを入れて魚を焼き始める。猿飛佐助と片倉小十郎の二人はその様子をジッと見て時たま道具の使い方を聞きつつ器用に自分たちの主の分の料理を作っていく。

今日の献立は焼き魚と野菜炒めと味噌汁。面倒だからのチョイスではない。決して。

手際良く野菜を切る二人の側でマイペースに野菜を切っていく私を見て鼻で笑った毛利元就の味噌汁を具無しにしてやろうとも思ったが反論が面倒だから止めておこうと思い直す。

味噌汁の出汁は鰹節とにぼしでとる我が家流のやり方だが片倉小十郎に変なものを目で見られた。美味しいんですよ?多分。と言えば多分か、と呆れられた。

なんだか知らないがちょっと打ち解けた気がする。気がするだけかもしれないけど。


さっさと自分たちの料理を作り終えればちょうどご飯が炊き上がったので前田慶次、毛利元就、長曾我部の三人に手を洗ってくるように告げる。洗面所の使い方はさっき前田慶次に教えたから大丈夫、なはずだ。


「意外に手際良いんだね」

「一応家事はずっとやってましたからねぇ」


全員分の食器を出して一度洗い直してから盛りつけていけば三人が戻ってきたので四人分の料理を少し悩んでから和室スペース(掘り炬燵のあるあそこだ)に持って行って並べていく。


「さ、食べますか」


私の隣には毛利元就。正面に長曾我部、毛利元就の正面に前田慶次が座った。


「あ、そうだ」


私は立ち上がりキッチンへ戻りバナナを一本と四人分のお茶を持って席に戻った。


「それは何だい?」

「バナナっていう南国の果物で、甘くて美味しいんですよ」


前田慶次の質問に答えながら皮を剥き、一口分だけ手で取り食べてから夢吉に渡す。


「俺達の分の毒味はいいのに」


そんな前田慶次の言葉を流し差し出されたバナナを見て首を傾げながら一口食べ、口に合ったのか一回飛び跳ねた後美味しそうに食べていく夢吉を見てにやけるのを抑えながらいただきます、と手を合わせて箸を取る。


「いただきます」


魚うま。


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