第-1話 裏舞台の策動

緊急招集を受けて、六神将・鮮血のアッシュは、信託の盾騎士団本部の廊下を歩いていた。
命令の主は、大詠師モース。
信託の盾騎士団を束ねながらも、現在は所用でダアトには不在である主席総長のヴァンに構わず、「マルクトが連れ去った導師イオンを連れ戻せ」と。
そこで、ヴァンの副官であるリグレットと、参謀総長のシンクを中心にして、各師団長に指示が出された。


そうして、本来は表の任務につくことのないはずの特務師団長の元にも連絡が届く。
しかし、この任務にアッシュは一つの疑問を抱いていた。


―――重要なのは分かるが、各地の六神将が集結してかかる程のことなのか?


主席総長、ヴァン・グランツには感謝している。
彼のお陰でアッシュは、預言に縛られ、死を強要される運命から解放された。
しかし、同時にそれはレプリカという存在によって、それまでの地位も、居場所も、名前さえも奪われながら。

その胸の内に燻った復讐を遂げることができるなら。預言に支配されたこの世界を変えることができるというなら。

そうして、唯一の心の拠り所となったヴァンの元、アッシュ―――かつての名をルーク・フォン・ファブレという青年―――は、薄暗い人生を生きて来た。


しかしながら、レプリカと預言の他にも少なからず向けられる憎しみ。アッシュに信頼の表情と言葉をかけながら、一方で胸中の全てを話さないヴァンへの不安と不審感。
そこから募る疑念もまた、存在していた。

現在、六神将の筆頭として動いているのは、かの男に忠実な副官・魔弾のリグレット。
もしやここでも、裏でヴァンの思惑が動いているのでは……。

そこまで思い浮かべていたところ、後ろから歩み寄る足音と共に、声が投げかけられる。


「六神将全員に集合がかかったって噂を聞きはしたけれど、特務師団まで出るとなれば、本当みたいだね」


聞き馴染みのある声に、アッシュは反応して振り返る。
そこに居るのは、第一師団の所属を示す、黒を基調として赤い線の入った軍服を着た金髪の少女。
その目元は鳥の翼のような仮面で覆われている。
口元は固く引き結ばれており、発する声は、幾分かは砕けながらも、軍人としての鋭さを帯びていた。


「ルタじゃねえか。お前も行くのか」
「そ。さっき師団長命令で招集がかかったところ。『隊長、小隊長は各自出撃準備を整え集合』って」


向かう方向が同じである為に、そのまま並んで歩く。
師団長と一般兵の会話としては、一見すると不釣り合いな口調と雰囲気。だが、このルタという少女にはそれを為すに値する実力と功績が備わっている。そして、アッシュもそれを認めているが故の対等であり、長年関わって来た親しさでもあった。


「ハッ、エリート様も大変だな」
「貴方程じゃないよ。特務師団長様?」


そう軽口を叩き合うも、それは嫌味というより揶揄い合うようなもので。
そこで、分かれ道へと差し掛かる。
アッシュは各師団長がその都度集う会議室へと向かう為このまま進み、ルタは隊長クラスの騎士団員の集合場所である、各師団員に割り当てられたオフィスへと右に曲がる。


「あたしはこっち。次に顔を合わせる時は任務中かもね。良い活躍ぶりを期待してるから」
「ああ、お互いにな」


そうして二人の騎士は、簡単な別れと激励の言葉と共に、それぞれの道を歩き出すのであった。


[ 2/3 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -