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「また買ってきたんですか」

こそりこそりと冷蔵庫の中から今日のためにと買っておいたロールケーキを取り出していると、背後から声がして、ひぃと悲鳴をあげた。
箱を背に隠して振り返ると、入間さんが呆れたと言いたげな顔でこちらを見下ろしている。
腕を組んで片眉を吊り上げている時はたいてい怒っているのだ。

「あー…あはは、嫌だなぁ、たまのご褒美じゃないですか」
「そのセリフ、昨日も聞いた気がしますけど?」

痛いところを突かれてうぐぐと口ごもる。
この状況を切り抜けて念願のロールケーキにありつくにはどうしたらいいのか、足りない頭で必死に考える。

「その、寒くなると甘いものが欲しくなるって言うじゃないですか。俺も人間なんで、栄養を蓄積しようと必死なんですよ」
「最近は暖冬で、それほど寒くもないと思いますが」
「そ、それは個人の感じ方の違いかと……」

もう部屋に篭ってしまおう。紅茶も持って行ってあるし、見たい映画も決まっている。
あとは入間さんの目をかいくぐれば、晴れて映画パーティーの始まりだ。

少しずつ部屋に続く廊下の方へ足を動かし、数ミリ単位でじりじりと移動しようとすると、進行方向を塞ぐように彼の手が伸びてきてとん、と壁に当たった。

「待ちなさい。まだ話は終わっていませんよ。いいですか、私はあなたのためを思って、」
「入間さん、あーん!」

は?と口を開けたその隙にロールケーキの封を切って一切れを突っ込んだ。
むぐ、と息の詰まるような声がしたが、気にせずに彼の口に入り切らなかった部分に噛みつく。
甘い生クリームが口いっぱいに広がって幸せだ。

「これで共犯ですね?」
「あなたって人は……」

口の端についたクリームを舐めとると、観念したのか入間さんは大きな溜め息をついた。
やった、許された。これで部屋に逃げられると気を抜いた一瞬の隙に手からロールケーキの入っている箱を奪われた。あ、しまった。

「映画、観るんでしょう」
「えっ、は、はい……」

すっかり怒られるつもりでいたので、急に話題を変えられて気の抜けた返事をしてしまう。
そんな俺に対して仕方がないと言うような微笑みを浮かべると、入間さんはぽんと俺の頭を撫でた。

「リビングに持ってこい。二人でなら食べてもいい」

考えてもいなかったお誘いに、ぱっと気持ちが明るくなる。
一人でのご褒美でもいいけれど、二人一緒ならきっともっとおいしく感じられるはずだ。

急いで部屋から紅茶のカップとDVDを持ってくると、入間さんはすでにリビングのソファでコーヒー片手に俺を待っていた。テレビをセットしてから隣に座る。
持ってきた皿にロールケーキを乗せ、フォークで一口大にしてから頬張った。
入間さんにも同じように差し出してみると躊躇することなく一口で食べてくれる。
その姿がなんだか愛らしくて眺めていると、入間さんの方からも一口、差し出してくれた。
ぱくり。甘い。さっきよりもずっと。

気が付けば、映画はとっくに始まっていた。



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