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6-1

 ぼくとおししょーさまが出会ったのは三年前。あの時ぼくは身も心もボロボロで、きっとおししょーさまも、おんなじようにボロボロだった。

 あの頃、ぼくらの国では大きな黒いドラゴンがあちこちで大暴れしていた。黒いドラゴンは強力な闇の魔力を持っていて、本当にたくさんの人たちが被害にあった。ぼくの家族もその一部だ。国でも実力のある魔導士や剣士の軍を作ってなんとかしようとしていたみたいだったけれど、ドラゴンはあまりにも凶暴で手がつけられなかった。

 ぼくのお父さんも凄腕のドラゴンハンター──悪いドラゴンを狩る仕事。大きな街に雇われたり、城の警備に就いたりする──だったんだけれど、あの大きなドラゴンには全然歯がたたなかった。ぼくの家は壊され、家族はみんな大怪我を負った。

 お父さんの両足は使いものにならなくなり、仕事を失った。ぼくは奇跡的に残るような傷はできなかったけれど、心には大きな絶望が残った。お父さんは村のみんなからヒーローと呼ばれていて、ぼくもお父さんが本当に強いと信じていた。だからこそ、そんなお父さんが手も足も出なかったあの光景が頭にこびりついて、こすってもこすってもとれない汚れになってしまった。

 またあのドラゴンが襲ってきたら、次こそ全員殺される。あんなのは人間が敵う相手じゃない。あれは地震だとか津波だとか、そういった災害と一緒なんだ。



 それから少したった頃、『光の剣士』があのドラゴンを封印したという噂が流れた。

 『光の剣士』というのは、光属性の魔力を使うことが出来る剣士のことだ。光属性の魔力を使えるってことがどれだけすごいのか、当時のぼくにはわからなかった。あとから知ったんだけれど、光属性の魔力を使えるのはこの世界にたった一人しかいないらしい。確認されてないだけで本当はまだいるのかもしれないけど、とにかくものすごく珍しいってことだ。

 噂を聞いてから、ぼくは光の剣士について必死に調べた。だけど、そもそもの情報が少なすぎて結局あまりわからなかった。

 わかったことと言えば、闇属性の魔力は全属性の魔力を足したくらいものすごく強い力だということ。闇属性の魔力を封じるには、光属性の魔力でなければならないということ。

 光属性の魔力は、『自分を信じる心』から生まれるということ。

 それを知ってからは、ぼくは光の剣士のことばかり考えるようになった。国が勢力を集めても、村のヒーローだったお父さんが向かっても、一切歯が立たなかった闇のドラゴン。それを、たった一人で封印することができる人間が存在するなんて!

 ぼくが光の剣士を探して村を出るのに、そう時間はかからなかった。もちろんみんなには止められたけれど、ドラゴンの被害でボロボロになってしまった村にいてもみんなで飢え死にに向かって歩いていくようなものだ。ぼくも災害を止められるような、圧倒的な力が欲しかった。憧れていた背中が無様に崩れるのは、もう見たくなかったんだ。

 何も悪いことをしていないのに、どうしようもなく大きな力に全部壊されていくのを見ているだけなのは、もう嫌だったんだ。



 そうしてやっと会えたおししょーさまに頼み込んで、ぼくは今隣にいさせてもらっている。どうやっておししょーさまの居場所を探し当てたのか、今ではもう覚えていない。何をそこまでぼくを突き動かしたのかわからないけれど、あの時は本当に必死だったから。

 強くなれば何かが見えるって、それだけを信じて進んだんだ。

 おししょーさまは、自分のことはあまり教えてくれない。だけどぼくの家族の話をしたら、おししょーさまも大切な人を失ったって言っていた。その人は、自分の半分だったって。自分がもっと強ければ、何かが変わっていたかもしれないのにって。

 おししょーさまくらい強くても、もっと強かったら、って思うんだ。ぼくらが大切なものを守りきるためには、いったいどのくらい強くなればいいんだろう。

 おししょーさまから消えてしまった半分を、ぼくでは埋めることができないだろうけど。おししょーさまはぼくに戦い方を教えてくれた。生きるすべを教えてくれた。時々どこかに消えていなくなってしまいそうなおししょーさまが、一人で道に迷わないように。せめてこれからはぼくが隣で歩いていこうって、そう思ったんだ。

 ぼくはもう、おししょーさまに後悔させない。もっと強かったらなんて思わせない。

 守られなくても良いくらい強くなる。闇の魔力なんて、二人で全部やっつけるんだ。

 ぼくらならできるよね、おししょーさま。


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