Reversi小説 | ナノ



2-6

 ニーナが、瞬時に腰から短いナイフを取り出した。鋭くドラゴンを睨み、距離を取る。

「あれは……闇属性のドラゴン!」
「ドラゴンて街中にも出んのか!」

 光一は首元のネックレスに手をかけ、力を込める。すると手の中のネックレスは熱を帯び、小さな炎に姿を変えた。炎はみるみる大きくなり、やがて光一の手には巨大な両刃の剣、《カグツチ》が現れた。

 現れたドラゴン達は全部で三体。いずれも小柄ではあったが興奮状態のようで、血走った目をこちらに向けて辺りを飛び回っていた。

「こいつら、野生のドラゴンなんか!?」
「ううん、そんなはずないよ! 闇属性なんて自然発生するはずがないから、近くにこの子達を管理してる人がいるんだと思う!」
「じゃあ賢斗の時みたいに、意図的に襲いに来たっちゅうことやな!」

 ニーナは後方に飛び、自分の左肩に手を添えた。その場にしゃがみこむと、光一に向かって叫ぶ。

「このままじゃ街にも被害が出ちゃう……! とにかく大人しくさせなきゃ!」
「さっきみたいにドラゴン使いの力でなんとかならんのか!?」
「ごめん、ここまで気が立ってるとさすがにアタシにも止められないの! この子達を操ってる人がいるならなおさらね! 今シールドを張るから、光一がその子達を追っ払って!」

 言い終えると、ニーナは目を閉じ左手を地面につけた。その場に強い風が巻き起こり、ニーナの足元には魔法陣のような複雑な模様が描かれ始めた。

「お願い、街を護って……クルス!」

 祈るようなニーナの声と同時に、辺り一帯が翠色の光に包まれる。光が最大になった瞬間ニーナは目を開き、地面につけていた左手を空へかざす。

「《シュタイン・プロテクター》!!」

 ニーナが叫ぶと、彼女の足元に描かれた魔法陣から巨大な石のような物がせり出してきた。光一が目を見開き後ずさる。

「なんやこれ!?」
「ふふん、可愛いでしょ! この子がアタシの相棒ドラゴン、クルスちゃんだよー!」

 召喚されたのは石ではなく、石のように硬い表皮を持つドラゴンだった。ニーナは自らが召喚したドラゴン、もといクルスを自慢気な表情で見上げた。
 クルスは猫のように背中を丸めていたが、どっしりと地面に四本の足をつき立ち上がると、その場で大きく 咆哮 ほうこう した。周りの木々がそれに合わせ、エメラルドのような鮮やかな みどり 色の光を帯びる。その光が徐々に、壁のような物になっていくのが見て分かった。

「これで広場以外には被害がいかないから、今のうちにドラゴンをやっつけて!」
「お、おう!」

 どうやらニーナのドラゴンは、周りにバリアのようなものを張ってくれたらしい。これで心置きなく炎を出すことが出来る。

 一体のドラゴンが、光一めがけて飛んできた。光一はしっかりした剣の感触を確かめると、大きく剣を振り上げる。目を閉じ、心をしずめた。

「えっと、込めるのは力やなくて心……魔力……」

 光一は必死にミチルの言葉を思い出し意識を剣に集中させたが、途中でカッと目を見開き力任せに剣を降ろした。

「んー、やっぱわからん! 頼むで《カグツチ》!!」

 振り下ろした剣からは僅かにしか炎が上がらなかったが、斬撃が直接ドラゴンに届いたのでダメージを与えることが出来た。顔面を切り裂かれたドラゴンが甲高い耳障りな叫びを上げ、ボトリと地面に落ちた。

 よし、と喜んだのもつかの間、すぐにその後ろからもう一体飛び出してきた。光一は咄嗟に右に飛び、それを躱す。

 ドラゴンに向き直った光一は素早く剣を構え直す。前方から二体まとめて跳びかかってきたが、光一が剣を横に一振りするとその軌道にあわせて炎が舞い上がり、ドラゴンは二体同時に地に落ちた。

 ニーナが感嘆の声を上げるが、光一は翼から炎を上げるドラゴンを見てなんとなく違和感を感じていた。

「わー、すごいすごい光一、さすが!」
「んー……なんか、手応えなさすぎな気もするけどなァ……」

 煮え切らない様子でそう呟いた光一に応えるかの如く、地に伏していたドラゴン達がゆらりと立ち上がった。焼け焦げた身を奮い立たせるように、翼を広げ 威嚇 いかく してくる。その様はどう見ても異常だった。

 光一が顔をしかめ再び剣を構える。ニーナも先ほど出したナイフを体の前に構えた。三体のドラゴンは甲高い奇声を発しながら、一斉に光一に向かって突っ込んできた。

「なんやこいつら、まだやるんか?」
「危ない光一、後ろ!」

 光一が前から飛び込んできた二体を剣で振り払うと同時に、ニーナがナイフを投げ後ろから向かってきた一体の動きを止める。

 しかしドラゴン達は、攻撃をやめようとはしなかった。ニーナの表情から嫌悪感が滲み出る。

「ボロボロのドラゴンを無理やり操るなんて……何が狙いなの?」

 ドラゴン達は徐々にスピードを上げ、色々な方向から突撃してくる。振り払うのは難しくない相手だが、あまりにもしつこいため二人の息は切れ始めていた。光一の剣からも最早炎は全く出ていない。重い剣先を地面に付け、思わず声をもらす。

「こいつらしつこすぎやろ……っ!」
「ハァ……アタシも、そろそろ……クルスの結界を保つのが辛いかも」

 背中越しに、ニーナも苦しげに答えた。そのうちドラゴンの一体が、口の周りに不気味な黒い光を集め始めた。光一は瞬時に、ドラゴンが次に何をするつもりなのか察する。初めてドラゴンと戦った時に嫌というほど見た、口からビームのような物を出す攻撃だろう。

 そのドラゴンに攻撃を当てようとするが、前から別の二体が襲ってくるためその場から動くことが出来ない。

 光一の首筋に汗が伝う。同時にニーナのナイフがドラゴンの翼に弾かれ、二人は完全にドラゴンに囲まれてしまった。追い詰められた二人は焦りを感じ、息を飲む。


 ドラゴンが二人に向かって一斉に飛びかかろうとした時、周りの空気が一瞬にして冷えた。冷気が、キラキラと空気中で結晶と化し舞い散る。

 何が起きたのか分からないでいると、後ろから聞き慣れた声がした。

「大地よ、凍てつけ! 《バーンフロスト》!!」

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