■ 紳士な猟師、或いは狼[蛇足]

紳士な猟師、或いは狼



沖矢昴がコナンの正体を知ったのは偶然。驚きはしなかった。コナンが工藤新一であることは一度気づいてしまえば当然の事として胸におさまった。彼の才能も、彼の目的も、彼が昴に正体を教えてくれないであろう事も全て理解出来る。だから責めはしない。
揺さぶってみたくなったのは、これまた偶然あのサイトを見つけたからだ。新一の情報を探している過程で子ども時代の写真に辿り着いた。コナンと何一つ変わらない姿に言葉にならない思いにかられたのだ。
責めるつもりはなくても、本当は告げたかったのかもしれない。──君の正体を知っている、と。だから何も心配せずに信用して欲しい。





コナンの反応は顕著だった。
触れた小さな身体は凍りつき、血の気が引いて冷たくなっていた。それでも顔に動揺が出ないよう堪えていたのは探偵としての性か。
若干、可哀想に思ったりもしたが、それよりこれからの変化に対する期待の方が大きかった。昴からこれ以上問い詰める事はしない。コナンがどう動くかが、昴の対応を左右する。
今までと変わらずにコナンの正体を見て見ぬ振りを突き通すか、秘密を共有してより手放せない関係を作るか。





事態は昴の想像をはるかに越えた方向に動いた。
お隣から聞こえる噂話は最近のコナンの様子。元々年上キラーだったコナンが、益々大人たちを魅了しているらしい。どういうことかと首を捻った昴だったが、自らやって来た本人の姿を見て納得した。
これまでの少年らしさが中和され、より子どもらしさが強調されている。大人がこうあってほしい、と望む子ども。
コナンが何とか自分から工藤新一のイメージを取り払おうとしていることが分かる。昴から見ればあまりに微笑ましい抵抗だ。危害を与える敵相手ではないから、優秀な頭脳が混乱しているのだろうか。

しかし昴には楽しい変化でもあった。
コナンが積極的に近づいて来ては、可愛らしくなついていく。推理をしている鋭い表情も、無邪気に可愛く笑うコナンもどちらも捨てがたい。すっかりコナンの作戦に嵌まっていることを自覚しながら、それを楽しんでいた。彼が望む距離がこれならそれでいい。





コナンが距離感を見誤ったのは幸運か、不運なのか。少なくとも昴にとっては間違いなく幸運だった。
自ら懐に飛び込んできた赤ずきんを逃がすほど、昴は枯れてはいない。小さな身体を組みしき、細い喉に噛みつくには銃も牙も必要なかった。
見た目よりもずっと強い矜持を携えている子どもが、たった一度手を上げた事で許してくれたことは、諦めじゃなく受け入れだと思って良いのだろうか。


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