俺の幼馴染みは少し変わっている。 小さい頃はそのままで気にしていなかったけれど、高校生になっても彼女は幼い頃のそれと変わらない行動を取るのだ。 例えば、今のこの状況。 俺の目の前には彼女がいる。 さして問題がないように思えるが、場所が問題だった。 俺がいるのは自分のベッドで、俺の隣には彼女がいて、彼女は気持ち良さそうに眠っている。 その無邪気な寝顔を見つめながら俺は浅く息を零した。 「………」 こうして俺のベッドに潜り込んでくるのは彼女の悪い癖だ。 小さい頃から誰にも咎められず、注意もされなかったため未だにこの癖が抜けずにいる。 いい年頃なのだからもう少し警戒心を持つべきだと彼女に幾度となく諭しているが、全く取りつく島もなく、今もこうしたことが儀式的に繰り返されている。 今に始まったことではないが、やはり体も心も大人の女性に成長した彼女の姿を見ると、思春期真っ盛りの俺としては刺激が強いというもので。 特に今日のような格好は目の毒だ。 ノースリーブのワンピースから覗く細い二の腕、艶めかしい首筋と豊満な胸元、そして極めつけは裾が捲れ上がって露わになっている細くしなやかな太腿。 「っ……、」 これ以上見るなと自分の中で誰かが叫んでいる声が聞こえた。 目を逸らそうと僅かに視線を落としても、すぐにまた彼女が気になって視界いっぱいに彼女を捉えてしまう。 ああ、そうだ、分かっている。 彼女は幼馴染みだ、ただの気の許せる幼馴染み。 女として扱ったことは今も昔も一度としてない。 ただ気が合って、好きなものも嫌いなものも似ていて、一緒にいても苦痛ではなくて、まるで友達、いや、親友といるような感覚になり、どうしてかは分からないが物凄く落ち着くのだ。 だから決まって俺は彼女と一緒に行動することが多かったし、彼女も俺と同じ気持ちなのか女友達よりも俺と一緒にいることの方が多かった。 友人からは「一緒にいて飽きないか」「彼女でもないのに一緒にいて楽しいか」と良く聞かれたが、これと言って問題はなかったし、疑問にも思わなかった。 俺にとって彼女は幼馴染みだけれど、幼馴染み以上の存在で………彼女といることは当たり前だったし、それが日常だった。 けれども、ここ最近はどうにも落ち着かない。 今まで平気だったことが戸惑いに変わり、普通だったことが普通じゃないと思うようになった。 ドキドキが鳴りやまない。 眠っている彼女に聞こえてしまうのではないかと疑いたくなるほどに心音が煩く響いている。 俺はそっと目を閉じて、そしてそっと目を開けた。 何度瞬きを繰り返しても、彼女の寝顔は安らかで穏やかだ。 「………」 俺は何度目か分からない息を小さくつくと、彼女を起こさないように額と額をくっつけた。 温もりが酷く愛おしい、彼女の寝息が心地いい。 彼女の長い睫が、彼女の薄く開いた唇が、唇から覗く赤い舌が、とても魅力的だ。 俺はこくりと息を飲んで、そっと彼女の唇にキスをした。 鼻先一センチにごくり (2012.10.07) 企画「慈愛とうつつ」さまに |