彼女と別れて数日が経った。 別れた原因はオレの浮気だ。 今思えば馬鹿なことをしたなと思う。 でも浮気心が芽生えたのも、彼女以外の女の子に惹かれたのもあの時だけだ。 ほんの出来心だった。 あの頃はお互いに忙しくて、オレと彼女の時間が合わなくて、少し寂しいなと思っていた時に、可愛いな好みだなと思っていた女の子から誘われた。 駄目だと思いつつも、誘惑に負けて、理性が吹き飛んで、その子と関係を持った。 それから彼女に隠れてその子と付き合うようになった。 もちろん彼女には内緒だった。 自分なりに必死に隠して、誤魔化して、バレないようにしていた。 もしバレてしまえば面倒なことは必至だ。 確実に彼女に責められるだろうし、嫌味もたくさん言われるだろう。 それが嫌で上手く立ち回った。 いや、上手く立ちまわっているつもりだった。 浮気なんて簡単なものだとどこかで嘲笑っていた。 こんなに上手くやっているのだからバレないだろうと高を括っていたのだ。 けれど、人伝にオレが浮気していることが彼女に伝わった。 ああ、面倒なことになる、そう思っていたのに、彼女はオレを責めることなく、別れて欲しいと淡々とした声音で告げてきた。 静かでいて、なんの感情も籠っていない声と言葉だった。 オレは言った「あれは出来心で、少し魔が差しただけなんス」と。 だから別れたくない、別れるつもりはない、そう言った。 けれど、彼女は薄く笑うだけで頷きはしなかった。 オレが何を言っても別れて欲しい、その一言だけだった。 「どうして別れたいんスか」 「決まってるじゃない。涼太が浮気したからだよ」 「でも……オレは別れたくない」 「わたしは別れたい」 「オレは……っ!」 彼女はオレの泣きそうになっている顔を見て「じゃあ、はっきり言うね」と言った。 「他の女の子とセックスした涼太と一緒にいたくないし、他の女の子に触った手でわたしに触ってほしくない。他の女の子とキスした涼太と喋りたくないの」 「っ……、」 「わたしを見ない涼太は嫌いなの。だから別れて」 言って彼女はオレの前からいなくなった。 使っていた携帯も解約して、住所も変えて、学校は同じだけど、クラスが違うから会う機会はなかった。 いや、彼女が会わないように立ち回っていた。 呆気ない終わり方だった。 彼女のいない日常は慣れた。 彼女が傍にいなくてもオレは大丈夫だと必死に言い聞かせて、どうにか日々を送っている。 けれど、たまに校内で彼女の名前を聞くとズキリと胸が痛む。 ギシギシと音を立てて、まるで彼女を求めるように、渇望するように軋むのだ。 でもその度にこれは罰なのだと自分を罵り、咎めた。 そうしているとこの痛みと苦しみが少しだけ、ほんの少しだけ和らぐような――――そんな気がするから。 君が居なくたって、僕は (2012.09.13) 企画「曰はく、」さまに |