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俺の幼馴染みは寂しがり屋で泣き虫だ。
少しでも失敗するとすぐ涙目になり、わたしなんてというのが彼女の口癖だったりする。
幼い頃はそんな彼女の隣が嫌で嫌で仕方なかった。
泣き虫が幼馴染みなんて嫌だった。
だから必要以上に自分から関わりを持とうとしなかったし、彼女が声をかけてきても話しかけるなという空気を漂わせて、極力自分に近づかせないようにしていた。
けれども、彼女はめげずに「和くん、和くん」と追いかけてきた。
泣きながら追いかけてきて、どんなに罵倒しても追いかけてきた。
そんな彼女に俺はイライラした。
傷つくと分かっているのにどうして俺のところに来るんだと罵声を浴びせて、彼女が泣きそうな酷いことをたくさんぶつけた。
そのとき俺は確信した。
これで俺を本当の意味で嫌ってくれるだろう、そう思っていたのに彼女はそれでも俺を呼んだ。
人一倍傷つくくせに、人一倍泣き虫のくせに、ぐちゃぐちゃに泣き腫らした瞳を向けて和くん、と呼ぶのだ。
その悲痛に含んだ声が酷く悲しくて、辛くて、苦しくて。
結局、嫌いになんてなれなかった。
いや、違う………本当は彼女が好きだった、大好きだった。
泣かせたくなんてなかった、ずっと笑っていてほしかった。
俺が守ってやるから、と胸を張って言いたかった。
けれど、俺の初恋は苦しくて辛いもので、誰かに恋をするなんて初めてのことだった。
何もかもが幼かったから、この気持ちをどうすればいいかなんて分からなかったし、友達や同級生にからかわれるのが嫌だった。
恥ずかしかった。
だから自分を偽った、自分の気持ちに嘘をついて彼女を遠ざけようとした。
俺は子供だった。
傷つけると分かっていたのに酷いことばかり投げつけて、泣かせて、傷つけて、たくさん涙を流させた。
俺はとにかく酷い幼馴染みだった。
彼女は気にしなくてもいいよ、ちゃんと分かってるから、そう言ってくれたけれど、納得なんて出来なくて。
なんて酷いことをしてしまったんだろうという罪悪感でいっぱいだった。
だから高校生になった今でも彼女に好きだと告白できずにいるのだ。
こんな情けない幼馴染みに好きだと言われても、彼女は困るだけだろうし、もし告白なんてしたら泣かせてしまうかもしれない、傷つけてしまうかもしれない。
そう思うと好きだなんて言えなかった、言えるわけがなかった。
……彼女は今でも俺を呼んで、俺に笑いかけてくれるけれど、いつかきっと俺ではない他の誰かのためにその笑顔を向けるのだろう。
それはすごく哀しいことだし、辛いことだ。
でも、彼女にとってそれは幸せなことかもしれない。
好きな人ができれば、俺に振り回されずに済むのだから。
だから――――どうか幸せになってほしい。
その涙も、泣き顔も、声も、笑顔も、他の誰かのものになるかもしれないけれど、それまではどうか俺を呼んでいてほしい。

「――――好きだ……」




初恋は苦難の味




(2012.08.17)
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