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休み明けというのは席替えの時期だと思う。冬休みがあけてから数週間、担任がホームルームで席替えをするぞと言ったときのあのざわめき。私はあんまり嬉しくなかった。いつもならまあまあわくわくするんだけど、今とは状況が違う。だって、風丸と席が離れてしまう可能性があるから。今私たちは隣同士で、授業中だとか休み時間だとかによく時間を一緒に過ごせたのもそのためだ。もしも席が離れてしまったら、そんなこともなくなってしまうんじゃないか。きっとそう。そう思うとなんだか寂しいなあと感傷に浸っているうちに、前の席からくじの入った箱が回されてきた。ぐっばい窓際、ぐっばい暖かい日光、ぐっばい私の青春、ぐっばい風丸。くだらないことを考えつつ、その紙の中から適当に小さめのものをひいて、隣の風丸に渡そう…と思ったら、風丸は机に突っ伏して寝てやがる。青い髪が日の光を反射してきらきらするのと直射日光でなんだかまぶしい。「風丸、おきて」ゆさゆさと控えめにゆすれば、すこし唸った後、顔だけ私に向ける。いつも髪の毛に隠されているほうの瞳が見えてたじろいでしまう。けれど動揺しているのは必死で隠しながら、紙くずの箱で頭を軽くたたく。



「なんのくじだよ…」
「席替え。引いたら前の人にまわして」
「席替え…」



眠そうに体を半分起こして、目を擦る風丸。少しの間があいたあと、「席替え!?」と驚いた様子で私に聞き返した。寝ぼけてたのかと苦笑すれば、すこし拗ねた様子でなんで笑ってるんだよと言った。なんで怒ってるのか頭に疑問符を浮かべれば、本当に拗ねたようで「もういいっ」と言われた。意味がわからない。でも怒らせちゃったみたいだ。風丸、と呼びかけても、よっぽど気に障ったのか無視されてしまう。なんだか悲しくなってしまったけれど、それじゃあ風丸に依存してるみたいでちょっと癪だし、どうせ席も離れちゃうからと呼びかけることをあきらめた。
全員くじを引き終わったようで、みんなが引いたくじが回収される。担任が黒板に席順を書き出し始めた。やっぱり風丸と席は離れてしまったけれど、また窓際なので良いや、と自分を納得させる。机を移動させる風丸を見て、胸がぎゅうってなった。もう風丸との接点が皆無だ。なんかやっぱり寂しい…けど、仕方ない。そのままホームルームは終わり、帰ることになった。明日からは登下校の足取りが重そうだなあ。と学校を出ようとすると、腕を強めに引っ張られる。



「…今日、練習ないから一緒に帰ってくれないか」
「…え」



怒ってたんじゃないの、と言おうとしたけれど飲み込んで、私の腕を掴んだまま引っ張っていく早足の風丸に追いつくのに必死だった。「か、かぜま、る!」「なんだよ」息を切らしながら名前を呼べば、さっきとは違って怒った様子ながらも返事をしてくれた。「う、腕…」離して、といったらなんだか拒否しているようで、言うのを躊躇してしまった。「っ…ごめん」ぱっと離した風丸。必死でついてきて気づかなかったけど、学校の近くの河川敷まで来ていた。夕焼けが赤く光っていて、目にしみるくらいだ。
何も言いだそうとしない風丸に痺れを切らし、私は思い切ってもう一度呼びかけた。



「風丸」
「なんだよ…」
「なに怒ってるの?私、なにかした?」



まっすぐ風丸の青い髪を見つめていると、私の方に向き直った。その顔は夕焼けですこし赤くなっているように見える。もう一度名前を呼ぼうとすれば、河川敷に座り込んで隣を二、三回たたいた。座れ、ということだろうか。言われたとおりに風丸の隣に座って横顔を見る、と照れたようにすこし顔を反対側にそらしてしまった。



「あのさ…」
「ん?」
「ごめん、お前が悪いわけじゃないのに、なんかあたるようなマネして」
「…別に、おこってないけど」
「なんかさ、席替えするまでずっと一緒だったから、いつの間にか当たり前になってたんだ」
「なにが?」
「お前が隣にいるのが」
「…そう、私もだよ?」
「ああ…、でもお前は席替えしても寂しくないのかなって思うと、ちょっと寂しいっていうか悲しいっていうか、そんなかんじでさ」



そういって照れたように笑う風丸が夕焼けよりも目にしみて、今度は私が顔をそらした。なんか変だ。いままでずっと、風丸の顔くらい平気で見ていられたのに、今日はなんか変なんだ。顔を見ると、どきどきするっていうか、ぎゅうってなるような錯覚におちいる。もしかしたら私は病気なのか、帰って鎮痛剤を飲んで寝たら、なおるだろうか。
ぐるぐる、風丸の笑った顔とか、怒った顔とか、さっきのちょっと赤くなった顔だとか、いろんな表情が頭の中で回りはじめるので、頭を横に数回振ってそれを消し去ろうとした。でも、消えなかった。



「どうしたんだよ、急に頭振って」
「なんか…変なの」
「え?」
「私、ずっと風丸のこと親友みたいな、仲のいい男友達だと思ってたの」
「…」
「でも、なんか今、普通の友達といるときよりも、胸がうるさいの」



ねえ、私って病気?病院にいったら、治る?って言えば、風丸はさっきよりも顔を真っ赤にして(これは夕焼けのせいじゃない)すこし俯く。その反応がなんだか気に入らなくて、肩をたたこうと思って手をのばす。「ひえっ!」その腕を急に引かれて、体がぐらりと風丸のほうに傾く。土と草の匂いと汗の匂いと、いろいろが混ざった中で確かに風丸の匂いがする。そのまま風丸が倒れこんで、私がのしかかるような形になってしまって。重いだろうと体を離そうと思っても、風丸の腕がしっかりと拘束していて離れられない。恐る恐る風丸の胸に頭を置くと、どくんどくんと早めの鼓動が聞こえる。風丸も、病気なんだ。私とおんなじで、どきどきしてぎゅうってなってるんだ。そう思うとかわいく見えてきてしまって、直視を避けていた風丸の顔を見る。その顔は相変わらず真っ赤で、笑えてしまう。



「私だって、寂しかったよ」
「え?」
「だって、ずっと風丸の隣がよかったもん」



本音を言うと風丸はこれでもかというほど顔を赤くさせて、私の目を手でふさいだ。恥ずかしいから、見るなと。せっかくだから見たいとせがめば、ちょっと黙ってろと笑いながら怒られた。声だけなのにどんな表情をしてるか浮かんでしまう。これは重症なんじゃないか。
風丸の声に名前を呼ばれて、すこしびっくりして返事をする。一瞬、口に軽い温かみをかんじる。手が離されて、視界が一気にひろがる。真剣な顔の風丸が、真っ先に目に入った。



「すき、だ。」



それじゃあ順序が逆だよ、って笑いながら、私もですと返事をした。





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