この話のつづき
あの日、初めてデートしたときから、先輩はたびたび私に口づけしてくるようになった。 キスするときの先輩はなんとなく、寂しそうな、憂いのようなものを含んだような表情をしていて、たまらなく胸がきゅうっとなる。
先輩の不安や苦しみを、私がもってあげられたら、いいのに。
「っん」
その夢のようなひとときがおわると、先輩は決まって私をだきしめて、すきだと言ってくれる。 そんな弱ったような南沢先輩を、私はなにもいえず、抱き返すので精一杯で、なんて無力なんだろうと、自己嫌悪におちいるのだ。
(もしも私がもうすこし頼れる彼女だったら、)
と、そこまで考えてはっとする。 先輩は、ほかの彼女さんにもこうしてキス、するのだろうか。
いやだな、でもきっと、こんなふうに弱ってる先輩を優しく包み込んであげられるひとが、きっといるんだ。 先輩がその人に救われてるなら私はそれで…、それで、満足だ。
(どうしてこんなに弱いの) (もっと強気になれればこんな思い、せずにすむのに) (知ってしまうのがこわいの)
もやもや、嫌な感情が私のなかで渦巻く。 しわがよっていたのか、先輩は私の眉間を軽くなでて、優しく微笑んだ。
「なんでだろうな、お前とキスしてるときが一番落ち着く」
私の後ろ髪に手をさしいれて、先輩はもういちど啄むようなキスをする。私はいつも息が続かなくて、鼻で息していいんだぜ、なんて先輩に笑われるのだけど、息をするのも忘れてしまうくらい、先輩とのキスはなにも考える余裕がなくって、私は胸がいっぱいになってしまうんだ。
「せ、んぱい」 「なに?」 「先輩は…、」
私のこと、どのくらい好きでいてくれてるんですか、 そんなこと聞いてどうしたいの、安心したいの、先輩になんて答えてほしいの?
続きの言葉が紡げなくて、先輩はちいさく首を傾げる。 私はそれ以上なにも言えなくて、やっぱり、なんでもないです。と苦笑いする。先輩が困ったように笑い、触れるだけのキスをするから、私は思わず泣きそうになってしまった。
まるで、先輩には私の思ってることが伝わってるみたいですね
そうしてすぐ誤魔化すのも、私へのせめてもの優しさなんでしょう
* * * 幸せじゃない 幸せになりたい
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