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アメリカ育ちというのはとても恐ろしいものだ。例えば人前でも構わず抱きしめてきたりキスをしようとしてきたりするのだから。ハグやキスはあちらでは挨拶だと聞いたことがあるけれど、ここは日本だ。そんなことを街中でしたら注目を浴びてしまうに決まっている。だから私は彼が苦手だ。だって別に付き合ったりしているわけじゃないのに、そんなこと…キスやハグをしてこようとするから。秋や土門くんはそんな素振り見せないのに。まあ秋は女の子同士だから、抱き合ったりはするけれど。一之瀬くんは男の子だ。私は普通の女の子たちと違って、ただでさえ耐性がないのだから勘弁してほしい。



「ぬくぬくする…」



言ったそばから、この男は私にくっついて離れない。精一杯引き剥がそうとしても、私の力は彼の力には到底及ばない。もがけばもがくほど力が強くなっていくので、諦めるという選択肢しか残されていないわけだ。当の本人は満足そうに私の体温に身を任せていて、私は心拍数が上がらないわけもなく、せめて熱の集まった顔を見せまいと逸らすことしかできない。付き合ってるようにしか見えないと秋にまで言われてしまう始末だ。彼女は私の味方だと思っていたのに。



「一之瀬くん…そろそろ休憩おわるんじゃないの…」
「まだ大丈夫だよ、壁山が戻ってきてないから」



お願い壁山くん早く戻ってきて今の私にはあなたが必要なんですお願いします。最早この私を救ってくれるのはあの大きな体の壁山くんしかいない…。彼が帰ってきたら練習は再開されるはずで、私は秋たちマネージャーの手伝いに戻れるのだ。いち早く戻って秋に慰めてもらいたい。この公開プレイの羞恥を沈めてほしい。
瞬間、一之瀬くんが力を緩めるので思わず顔を上げれば、じいっと私の顔を見ている。何かついてるのか。よく分からない状態で彼を見上げれば、にこっと学校の女子を虜にした笑顔を咲かせる。「顔真っ赤で、かわいい」そんなことをさらりと、平然と言ってのける。やっぱり一之瀬くんは苦手だと思いながらも、力が緩んだ隙に離れようとすればまた引き寄せられる。お願い壁山くん早く戻ってきて!迅速に!と願った直後に、彼は私の期待を背負って校舎から駆け戻ってくる。その姿は神様のように見えた。



「あーあ、もう戻ってきたか」



残念そうに言う一之瀬くんにほっとしながら、もう休憩は終わりだからねと伝えれば、眉を下げて私を離した。さあ秋のところへ行こうと走りだせば、腕を引っ張られて前につんのめる。引っ張った犯人はもう既に明確なので、いい加減にしろと咎めようとすると、口の端あたりでちゅっと軽い音が鳴った。



「ちゃんと、見てろよ」



そう低い声で囁かれ、へなへなと足から力が抜けていくのを必死で堪えながら彼を見送ると、一之瀬くんは悪びれもせずに人差し指と中指を額あたりにあて、私にウインクを飛ばすのだった。






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