あの人はかっこいい。
厨二っぽいところもひっくるめてかっこいい。
私なんかが一緒にいていいのってくらいのかっこよさ。気を抜いたら虜になってしまいそうで。
(もしかしたらもうとっくに虜なのかもしれないけれど)
毎週水曜日は放課後に一緒にでかける日
べつにそう決めたわけじゃない、でもお互いに「今日あえる?」なんて連絡しあっているうちに、自然とメールや電話をしなくても会うようになった。
待ち合わせ場所はキタジマ模型店の前。いつもならそろそろくる時間、なんだけど、
(…もう、東のほうの空が暗みはじめてきた)
日が短くなってきたにも関わらず、こんなに遅くなったのは初めてかもしれない。
携帯に連絡もないし、いったいどうしたんだろう
たしかに約束はしてない、でも、来ないなら連絡くらいしてくれるはず…だし。
もやもやと考えながら、私は足を一中の方向に向けた。----
一中に足を踏み入れると、部活の片付けをしているひとがまばらにいた。ダイキはどこにいるんだろう、まだ学校にいるかな、とグラウンドの端から探すと、体育館裏に続く細い路地で、目立つ紫色の髪が揺れているのが見えた。
よかった、まだ帰ってないみたい。
あんなところでいったい何してるんだろう、
だいき と声をかけようと路地を覗くと、彼はひとりじゃなくて、なんだかかわいらしい女の子と一緒にいる。
「仙道くん、わたし、」
私はここに足を運んだことを、ひどく後悔した。
おとなしくミソラ商店街で待っていれば、こんな─告白現場なんて、見ずにすんだのだから。
幸い彼女にもダイキにも気づかれていない、今のうちに、なにも見なかったことにして、家に帰ろう、約束したわけでもないし、もしかしたらダイキだって今日は来るつもりはなかったかもしれないでしょ、
自分に言い聞かせて、逃げるようにその場を去った。走って走って、よけいなこと、考えないように。----
河川敷を歩きながら、あの子の顔をおもいだす。女優さんみたい、だった。
私なんかより何十倍もかわいくて、すらっとしていて、まつげも長くて、髪もさらさらで…、長所をあげだしたら、きりがない。
ダイキとならんでる姿を想像してみると、なんて絵になるカップルだろう、美男美女というやつじゃない、
「…身のひきどころかなあ」
呟いた声は小さすぎて、真っ暗になった空にすいこまれていくよう。
すこしだけ涼しくなった風がきもちいい。
「ため息なんかつくなよ、幸せが逃げるぜ」
うしろから投げかけられた声、距離はちかい。
ダイキはいつだって、こうして近づいて、私のことをびっくりさせる。もう、慣れてしまった。
今日は会いたくない そう思っていたけど、心の奥では会いたい って思ってた。矛盾してる、わらえばいい。
「今日、どうしたんだよ なんか用事でもあったの?」
「…べつに、なにもないよ?」
でも、会いにくかった そんな言葉は寸でのところで飲み込んで、ダイキの言葉を待つ。
ちらりと彼を見やると、いつも通り、余裕ぶった笑みで、さっきの告白なんてなかったことにしようとしてるみたい、そんな表情をしてる。
「なに怒ってるんだよ」
「怒ってないよ…、ただ」
「ただ?」
口が滑った。せっかく飲み込んだ言葉を、吐き出しそうになった。
なにか言いかけた私を、ダイキは不機嫌そうな目でみる。怒ってるの、怒ってるんだ、きっと。
「…みちゃった」
「なにを」
「ダイキが、女の子に、こ…こく、はくされて、るとこ」
ダイキがあまりにも不機嫌そうだから、こんなに怒ってるところみるの、初めてで、怯んでしまった。
その不機嫌そうな顔が、しまったな みたいな表情になった。
やっぱり、私にばれたら不都合があったの、つきあうことにしたの、私のことを探してくれたのは、別れ話をきりだすため?
私の脳はどんどんマイナスの方向にすすんでいって、ネガティブな考えしかでなくなる。
「…で、お前はヤキモチをやいてるわけだ?」
やきもち、たしかにこのもやもやした気持ちはやきもちだ。
でも、やきもちなんかやくようなレベルの相手じゃない、私とは階級が違いすぎる。
「あの子、かわいかった、ね」
「そうか?」
「かわいかったよ…!女優さんみたいで、あんな子、ふるのもったいないんじゃない」
ダイキは私の言葉を聞いて、深くため息をついた。
「それで、身をひいたほうがいい、とか考えてたってわけ?」
「そう…ですけど」
「…お前はほんっと…バカだねぇ」
哀れみを精一杯こめた声でいわれて、頭を小突かれた。
ダイキはあきれたような笑みを浮かべていて、もう不機嫌そうじゃなくなってる。
小突いたところをなでるように触れて、そのまま後頭部からひきよせられ、た。
そうして私の耳に顔を傾けて、囁くようにいう。
「心配しなくても、俺の目にはお前しか映らないよ」
ぎゅう、っと、心臓がわし掴まれたような感覚に、ダイキの服を握った。
見透かしてたといわんばかりに、ダイキの手が私の手の甲に重ねられて、とどめのひとこと。
「おまえが一番だ」
安心したのか、それとも自分のことをこんなに愛してくれてる彼に感動したのか、そう囁かれた瞬間に、私はぼろぼろとみっともないくらいに泣いた。
それを見て、ダイキは困ったように笑って、優しく涙を拭ってくれる。
もう、身をひくなんてバカなこと考えるのはやめよう。
そんなこと考えてる暇があったら、目の前のこのひとを、せいいっぱい愛そう。* * *
なにこれなにこれ
仙道さんすきです 檜山さんもすきです
私の中でそのふたりがツートップです