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(…あ、)

待ち合わせ時間の15分前についたにも関わらず、先輩はそこにいた。
焦って駆け寄ると、先輩は転ぶよ、だなんて微笑んで、乱れていたのか私の髪をやわらかく撫でつける。

「すみません、待ちました?」
「いや、今来たとこ」

なんだか典型的な恋人会話…いやいや、なにを考えてるの私!

とっさに浮かんだ言葉を振り払う。

「…、いくか」

先輩はすこし手を迷わせてから、意を決したように私の右手をさらった。

手を繋ぐことなんて初めてじゃないのに、どうしてこんなに胸がはねるの、
おねがいだから落ち着いてよ!

だけど私服の先輩は制服とはちがった魅力があるものだから、まったくぜんぜん私の命令を聞いてくれない。どうにかして動悸をおさえつけて、先輩の隣に並ぶ。

「どこ、いくんです?」
「とりあえずは昼、かな」
「そうですね、時間も時間ですし」



昼時なのでどこの店も混んでるだろうと予想したのだけど、そうでもなかったのでファーストフード店にはいることにした。

先輩はピクルスが苦手だということがわかった。この人は以外と好き嫌いが多い。
トマトも嫌いだし、バナナも食べられない、と苦笑いして、先輩は最後のひとくちをたべた。
「あ、先輩、ケチャップついてます」

思わず手を伸ばして指でぬぐう、と、先輩は私の手を掴み、─私に驚く間も与えず─私の指についたケチャップを舐めとった。

「ちょ、南沢先輩…!」
「あのさ、せっかくのデートなんだし、呼び方かえないか」
「えっ」
「篤史、ってさ」

な、呼んでみてよ。なんて有無を言わさないような目で私を見て、先輩は脚を組む。
これは呼ばないと先に進めないみたい、だ。

「恥ずかしいか?」

ふと、南沢先輩は私に聞いた。私は俯く。「恥ずかしい、というか、照れます。」と声にならないくらいの声でつぶやいた。

それ同じ意味でしょ…なんて、自分で自分につっこみを入れてしまうくらいには混乱してる。
その言葉を聞いた南沢先輩はたいそうおかしそうに笑って、私の頭をくしゃっと撫でてくれた。

「ははっ ごめん、すこし意地悪だったな」

キミの照れてる顔、好きだからさ
先輩は意地悪だけれど、こんなふうに言ってもらえるなら、意地悪されるのも嫌じゃないかな、なんて思ってしまったり、して。

(もしかして私ってマゾヒストだったりするのかな。)


その後は一緒にウィンドウショッピングをして、私の要望で本屋さんによって、クレープをたべて、
普通の恋人の、普通の休日のような過ごしかたをした。

日曜日の彼女さんは、いつもこんなふうに先輩と過ごしてるのかと、そう思うと、うらやましくて胸が苦しかった。