※南沢先輩がちょっとひどい男の子なので注意
先輩には、恋人がいる。 恋人。私はずっと、その言葉は特別な人を指すものだと思っていた。だから、好きな人の恋人になれることは、とても素敵なことなんだろうと、そう思っていたのだ。
先輩には恋人がいる。たくさん、数えきれないくらいだ。私もそのなかのひとり。
南沢先輩はとてももてる。かっこいいし、女の子には優しいし、サッカーもうまい。あとなんとなく色気がある。 いわば憧れの人、であった。入学したときから私は南沢先輩のことばかり見ていた。
私のことを好きだといった先輩は、いつもの先輩ではなかったように思えた。照れていたのだ。 あの余裕のある南沢先輩が、ととてもびっくりしたことを覚えてる。だから余計にうれしかった。 私は先輩の特別になれるのだと。
けどそんな幻想、一晩で消え去った。南沢先輩に彼女が何人もいることはすぐに理解した。 一夫多妻制、そんなような言葉が当てはまる。先輩の彼女は誰もきれいな人ばかりで、肩身が狭くなったような気分。
水曜日は私にかまってくれる日。 朝は迎えにきてくれて、お弁当も一緒に食べて、サッカー部の練習が終わってから手を繋いで帰る。 その日だけ、私と南沢先輩はこいびと同士、だ。
先輩は私にとても優しくしてくれて、尽くしてくれる。 まるでつぐないのように、優しく、優しく。
(でもそれは私だけに、ではなくて、)
たまにとても苦しくなる。 南沢先輩が私だけを愛してくれたらと、思ってしまう。
そんなの絶対許されない願い事だなんてわかってるのに。 ああ、そういえば明日は水曜日だ。
…
「先輩、私、くるしいです」 「…うん?」
呟くように言った言葉に、先輩はすこし送れて返事をした。
手を繋いでいるのに、先輩との距離が遠くかんじてしまう。 南沢先輩はきっと、わかっている。私がなにに苦しんでいるのか、だけど、気づいてないふりをしてるんだ。
先輩がほかの女の子と一緒にいるところを見るのがつらい、手をつないだり、キス、したり。 そういうの、想像するだけで胸が締め付けられるくらいで、たっていられなくなる。
「わたし、」
私は歩みをとめた。先輩もつられて立ち止まる。 嫉妬だとか、羞恥だとか、そういうのとはすこしずれたベクトルの感情に、思わず俯く。 先輩が私のことをじっと見ているのがわかる。 私だけを見つめてくれているのが、すこしうれしい。
「私…先輩のこと、すきです、世界でいちばん、だいすきなんです」
視界がゆれる。
(こらえろ、こらえて、おねがいだから、)
ぼろりぼろり、ついに雫がおちて、地面にちいさく染みた。 それを見た先輩は私のことをやさしくだきしめて、ささやくのだ。
「ごめん…、でも、俺もキミのことがとても好きなんだ」
お願いだからなかないで、なんて困ったように笑って、私の前髪をかきあげて、涙の溢れる瞼にくちづけた。 困っているのも、苦しいのも私なのに、どうして、こんなにうれしくて、胸がぎゅうっとなるの。
* * * 消化不良… つづき書きたいけどどうしようかなってかんじです。
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