(何週間ぶりだろうか、彼女の姿を見たのは。)
ライオコット島から帰ってきた夜、いてもたってもいられなかった俺は、彼女の家の前まで来てしまった。 カーテンは閉まっているが、部屋の電気はついているようだ。意を決してメールを送る。
『いま、出てこられるか?』
数分してから、彼女の部屋のカーテンが開く。 そこから顔を覗かせたのは、間違いなくあいつで。 そうしてすぐカーテンが閉まり、かわりに勢いよく玄関のドアがあいた。瞬間、猛スピードのタックルをくらったが、サッカーのそれのほうがもちろん強いので平気だ。 彼女は次郎次郎、と俺の名前を繰り返し呼ぶ。まるで存在を確かめるかのように。その声も、胸元を掴む手も、胸を締め付けられるようでたまらない。 俺がライオコット島へ行っている間、こいつはこんなに心細かったのか。そう考えると、申し訳ないような愛おしいような気持ちがじわじわと浮かんでくる。
「どうして電話もメールもくれなかったの」 「…すまない」
正直、あっちに渡ってから毎晩毎晩電話しようかと番号を表示させてはいた。だが、ここで電話しては、世界のレベルに触れた弱みを見せてしまう。 あいつの前ではできるだけかっこいい、余裕のある俺でいたい。そう思ったから、発信ボタンを押せなかった。 しかし、それが裏目に出てしまったらしく、目の前の彼女は悲しげに俺の胸に顔を埋めている。俺はなんて馬鹿なことをしたんだ、と後悔の念にかられるばかりで。
「ごめん、…ごめんな」
柔らかな髪を撫でていると、俺に預けっぱなしだった体をすこし離して、鼻をすする音がした。(ああ、掴まれてユニフォームがシワだらけだ)様子を伺おうにも俯いたままなので、なにもわからない。 だけどきっと泣いているんだろう。微かに嗚咽がもれている。どうしたら、泣き止んでくれるんだろう。 彼女が泣いている姿を見るのが、俺にとって一番つらい。だからせめて、泣き止んでほしい。
「ばか」 「えっ」 「次郎の馬鹿」
ずっと寂しかったのに。そういってもう一度俺の背中に腕をまわして、これでもかというほど締め付ける。 今度はそっと抱きしめ返して、どうしたら許してくれる?と聞いてみた。
「…仕方ないから、愛してるの一言で許してあげるよ」
くすくすと笑う彼女に、そんなことでいいのか。とすこし安堵する。 それから俺は耳元に口を寄せ、精一杯の愛を囁く。
「愛してる、愛してるから」 「…ん」 「もう、泣くなよ」
涙の滲む目元にキスをして、温かい雫を飲み込んだ。 すると、くすぐったい。なんて身を捩るのでついでに頬にひとつキスをしてやった。
「許してくれたか?」 「しょうがないなあ」
「次郎、おかえりなさい」 「ただいま」
やっと笑顔を見せてくれた。
* * * うわああああああ 最近どうも私の様子がおかしい レイアウトが安定しなくてすみません 気に入りそうなのを模索中です
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