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小さいころから、少女漫画のことはずっと馬鹿にしている。
恋なんて実るものじゃないって、ずっと否定している。
心底嫌いだ、あんな夢物語。
だって現実では、恋愛なんて成功する確率のほうが低いに決まってるんだから。


「ずいぶんとブサイクな顔してるね」
「今日もうるさいなあ」


早朝だ。
まだ小鳥のさえずりが耳に残っている。
部活の朝練なんてないのに、どうしてこんな時間に来てしまったのか。
自分の中ではもう、答えなんてとっくに出ている。


「あ、もっとブサイクになった」


朝っぱらからブサイクと笑い飛ばされれば、不機嫌にだってなる。しかも、仮にも想い人にだ。
こいつのせいで今朝の気分は最悪。
足早にその場を去ろうとすれば、手を掴まれる。睨むように振りかえるも、こいつは怯む様子もなく。


「冷たいなあ。幼馴染だろ、僕たち」
「私の幼馴染は桜だけだよ」


つれないなあ。だなんて冗談交じりに言う慎二。
無理やり手を振り払おうとすれば、もっと強く握られるだけで、無駄な抵抗だということを思い知った。


「離してよ…」
「もしかしてお前って、僕のこと嫌い?」
「…なんで」


どうしてそんなこと聞くの、嫌いなわけないじゃない、わかってるんでしょ?
そういってやりたいのに、私の態度はいつだって可愛くないものばかりで、妙な意地をはってしまう。
このままじゃ慎二だって、私のこと嫌いになっちゃうんじゃないか。そう思っているのに、うまくいかない。
好きなのに、言ってしまいたいのに。でもそうしたら、きっとこんな風に気にかけてくれなくなるから。

自然と俯いていた顔を上げたら、慎二と目があう。
そうしたら厭らしくにやりと笑って、口を開く。まるで心を見透かされたような気分になった。


「僕はとっくに、君を好きになってるんだけどね」


見透かされたような、ではない。
本当に見透かされてしまったみたいだ。


「…うそ、つき」


信じられない、信じたくない、信じたい
目の前で、昔みたいに優しく笑う慎二は、本物?私の目はそれさえも見分けられないの?
これは夢か現か、ああわからない。


「好きだよ、小さいときから、ずっと」


少女漫画のことをずっと馬鹿にしていた。
恋なんて実るものじゃないって、ずっと否定していた。
なのに今は、どうしようもなく嬉しくて、油断したら涙が溢れてきてしまいそうな気分だ。


「おねがい、悪い冗談はやめて」
「…それで、返事は?」


冗談はやめて。そう言ったのに。
返事を促してくるなんて、慎二はいつでも意地が悪い。返事なんて、わかりきってるくせに、ひどい。


「冗談なわけないだろ?僕は君が好きなんだよ」


耳元で囁かれた声に、私は溶けてしまいそうになるのをぐっと堪える。
めまいがした。くらりくらりと。
そうしたら腰に手が回されて…あ、もう、だめだ。

その日、私は間桐慎二という男の毒牙に、全身を麻痺させられてしまったのだ。






Fate/stay night 間桐慎二
いま、神谷浩史が熱い



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