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日が変わってから寝て、昼過ぎに起きる。そういう生活続きだ、夏休みなんて。そうして今日で七月も終わってしまう。明日からは八月、そうしてすぐに始業だ。このままだらだらと毎日過ごし、宿題をそこそこにして、外出もせずにこの長い休みを潰すのだ。
果たしてそれでいいのだろうか、このままじゃあいけないんじゃないか。
そうしてベッドから起き上がり、適当に着替えて外に出たのはいいものの。
「最悪、だ」
数時間前の自分を呪うように、ぽつりと呟く。やっぱり外なんか出るものじゃなかった。
まさしく土砂降りという表現が似合うような雨。ゲリラ豪雨というやつだろうか。家を出るときには雨なんて降らないカラカラの晴天だったので、もちろん傘なんて持っていない。仕方ない。並ぶ店先の屋根沿いに歩き、ちょっとした雑貨屋でチョコレート色の傘を買った。別にビニール傘でも良かったのだけど、なんだか目がいってしまったから。
さて、傘は調達したとして。ここからどうしようか。せっかく南東京まで足を運んだのだから、このまま帰るのはどうにも気がひける。
情けない音がして、周りを見渡す。誰もいない。私のお腹が鳴いたのだ。そういえば、朝から何も口にしていなかった。
ちりんちりんと鈴が鳴る。
なんとはなしに、近くの定食屋に入ってみた。女子中学生ひとりで定食屋とはいかがなものか。とは思ったのだけれど、ほかには高そうなフランス料理屋しかなかったのだから仕方ない。
自分自身に言い訳をしつつ、カウンター席に座る。メニューを見て、オムライスを頼んだ。好物だから。
店内にはすこし幼い少年、厨房には女性ひとり。店員は、これだけだろうか。きょろきょろと見回すと、少年と目があう。
「いらっしゃい、ご注文はお決まりですか?」
満面の笑みだ。
眩しいと思いながら、オムライスをひとつ。と言えば元気な声で「かしこまりました」と返ってきた。小学生だろうか、店内を元気に走り回って、愛嬌を振りまいている。その姿はなんだか小型犬のようで、可愛らしかった。
十数分待ち、湯気のたつオムライスが目の前に差し出される。「お待ちどうさま、です」またこの少年だ。やはり、この子と厨房の女性しかいないらしい。
「お姉さん、雷門中の人ですよね?」
「えっ」
急に話を振られたので、びっくりしてスプーンを落としてしまった。
拾おうと手を伸ばせば、少年の指と重なる。
なんとベタな…と思えば、彼は「ごめんなさい」と謝ってから新しいスプーンを持ってきてくれた。
「ありがとう、」
「本当にすみません、ごゆっくり!」
そのまま厨房に行ってしまった。なんだったんだろうか。
オムライスは言うことなしで美味しかった。そのうえリーズナブルな値段で助かった。また来よう、そうしよう。
会計のレジを操作していたのもさっきの少年だった。よく働く子だなあ。なんて思ってしまった。
お店を出ると、鬱陶しく降っていた雨がやんでいる。
ぱしゃぱしゃ。はねる水溜り。駅への道を歩き出す。
ん?…ううん、何か忘れている気がする。なんとなく片手が軽いような。
「あのっ」
後ろから投げかけられた、男の子の高い声帯の音。
すっかり晴れた空を見上げる。あ、そういえば。振り返れば、さっきの少年だ。
「傘、忘れてますよ!」
先ほど買ったばかりのチョコレート色の傘。良かった、忘れたままにならなくて。
受け取ってからお礼をのべると、彼は年相応の笑みを浮かべる。
「また来てください、待ってるんで」
そうしてはにかんで、くるりと踵を返す。
やばい。なんだかきゅんときてしまった。
最近の定食屋は変わった客引きをするものだ。
どうせ何もない、くだらない日々を過ごす予定の夏休みなのだから、彼の言葉に応えてみてもきっと、罰なんてあたらないはず。
ひどくぐだぐだ。
そのうち続きを書くかもしれないです。