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「明王はもう少し、私に優しくするべきなんじゃないかな」


からん。汗をかいたグラスから氷の溶ける音が響く。
中に注がれていたコーラは、数分前に目の前のモヒカンが飲み干してしまった。
明王はすこし目を瞬かせてから、怪訝そうな顔ではあ?とか返してきた。髪の毛全部抜いてやろうかと思った。



「どうしたんだよ、急に」
「…急じゃないじゃん」



私のグラスにはまだなみなみとコーラが注がれていて、氷が溶けてすこし水っぽくなってしまっている。それをちび、と飲みながら、もう一度明王を見る。
心底おかしいと思っているようで、先ほどからあまり良い顔をしていない。



「別にね、私をお姫様みたいに優遇して。とかじゃないの」
「…それはねーよ」
「でしょ?」



とどのつまり…、言いよどんでもう一度コーラを飲む。
なんと言えばいいかわからなくなってしまった。さっきまで頭の中で話をまとめることができたはずなのに。
喉がからからして、うまく声が出ないような、そんな錯覚に陥ってきた。
そんな私を見ていた明王はこちらに近づくと、手からコーラを奪い去って飲み干してしまった。
薄っ…。そう呟いて、グラスを置く。なんか、近い、かも。



「優しくって、具体的にどうすりゃいいんだよ」
「えっ…」



具体的に、というと?
恋人間の優しさというのは、どういったものだろうか。
キスやらハグやら、そういうものから優しさを垣間見たり、とか。
…明王に限ってそんなことは絶対にないとわかっているけど、夢を見るのは自由なのでよしとしてほしい。



「わかんないけど…明王の考える優しさってなに?」
「わかんねーのに俺に聞くなよ」
「だって、言葉にしにくいっていうか…難しいんだもん」



いつの間にか正座していた足を解いて、並んで置いてある2つのグラス(もうすっかりびしょ濡れだ)を片付けようと立ち上がる。「う、わっと」すぐに腕を引かれて、また座らせられる。



「片付けなんか後でいいだろ」
「あ、…そうだね」



そこで沈黙。
なんとなく気まずくて、なんとなくどきどきする。
ちらっと明王を盗み見ると、がっちりと視線が交じり合ってしまった。反射的にそらそうとすれば。
小さな舌打ちが聞こえて、顎を思いっきりつかまれた。



「…あきお、痛い」
「おまえはもう少し空気を読め」
「えっ、あ」



大き目の手のひらで目を塞がれて、かさついたものが口に押し当てられる。
それはなんだかとても熱くて、そういえばこんなにゆっくり、柔らかくキスされたのは初めてだ。
しばらくしてから離れて、急に入ってきた蛍光灯の明かりに目がちりっとした。
何度か瞬きすると、明王が笑みを浮かべている。なんとも珍しい、皮肉を感じないような笑顔だ。



「なんか明王気持ち悪い」
「なんだと」



ナメやがって。と言って彼は厭らしい顔で笑って、私の肩を引く。さっきとは正反対の、荒々しい手つきで。
目隠しなんてされないままに、上唇に噛み付かれる。微かな痛みで思わず目を閉じれば、わざとらしくリップノイズを立てられる。
何度も繰り返されるそれに、頭がくらくらしてきてしまう。思わず明王の服を掴めば、その上から手を握られて、たまらなくいとおしい気持ちになって。
やっぱり明王はこのままでいいや。このままがすきだ。そう思った。
願わくは、彼と私の時間ができるだけ長く続きますように。



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