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※原作無視注意

「よろしくね」とゆるく笑った彼は驚くほどの美少年だった。いままでずっと窓の外を見ていて、当然ホームルームなんて聞いてなかったので、余計に驚いた。髪が白いっていうのにも驚いた。とにかく驚きっぱなしだった。周りからは女子の羨む声と男子の溜息が聞こえてくる。それは私の隣でにこにこと見てくる彼に向けられているものらしい。冷静に見ても見なくても美少年だ。クラスの男子と月とスッポンなんて比にならないくらい。名前を聞こうと思えば、自ら自己紹介してくれた。吹雪という変わった、というかなんだか洒落た名字らしい。サッカー部に所属しているとか。ここまで来るともう贔屓な気がする。とりあえず彼の第一印象は驚愕の一言だった。

それから数ヶ月。彼の人気は落ちることなく、寧ろ鰻上りだった。どうにかして一緒に帰ろうとか、気を引こうとか必死になっている女の子たちがなんだか羨ましい。なぜか、というと、私が彼に惹かれていくのに時間はかからなかったからだ。けれど私にはそんな勇気はない。隣からしばしば、というか結構話しかけてくれる彼に答えるのが精一杯だったのだ。おかげで私は随分な聞き上手になった(と思う)。いつものように彼からバイバイと告げられて、照れているのを隠すのに必死で手を振った。ただの挨拶なのに、まだ慣れない私はおかしいのかもしれない。今日もサッカーの練習だろうか、またとりまきのように女の子たちがそれを観ているんだろうなと思うと気が重くなった。それは意味もなく彼を想ってしまう不甲斐なさから来たものだ。我ながら情けない。
寒風が頬をさすように吹くので、たまらなく思ってマフラーに顔をうずめる。濃い灰色に染まった冬の空がうらめしいほどに寒い。息を吐けば真っ白に広がり、消えていった。強い北風が私の体を芯から冷やしていく。家が恋しい。ふと頬に痛いくらいの冷たさを感じ、空を見上げれば。



「…あ」



ちらちらと白い雪が降っている。それは初雪だった。尚更早く帰らなきゃと思い、足を速める。寒いのは大の苦手なので、足の指先の感覚はもう無いに等しいほど冷え切っていた。じんじんと痛みを抑えながら歩いていると、後ろから追いかけるように忙しい足音が近づいてくる。思わず振り向けば、白い髪と白いマフラー。一瞬で気づいてしまった。



「吹雪…くん?」
「よかった、追いついた」



そう言って息も乱さずに私を見て笑う。さすが運動部に所属しているだけのことはある。目前の吹雪くんと背景に降る雪にしばし見惚れていると、鼻真っ赤。と彼は優しく私の頬を両手で包んだ。冷たいねと呟く吹雪くんの顔は心なしか強張っていて、なにかあったのかと心配になってしまう。



「先にキミの姿が見えて、追いかけてきたんだ」
「そう…なんだ、えっと…部活はおやすみ?」
「今日は天気が崩れるのがわかってたからね」
「そ、っか…」



吹雪くんの手が頬にあることを意識してしまって、緊張でしどろもどろにしか言葉を発せられない私を吹雪くんはさぞおかしそうに見る。私もつられて微笑みそうになるのを必死でおさえる。また強い突風が吹いて、私たちの体を冷やす。まるで早く帰れと急かすように。思わず体を震わせれば、彼は特有の眉毛を八の字に下げて私を心配そうに見る。



「寒い?」
「結構…」



そうか、彼は確か北海道出身だから、このくらいの寒さはへっちゃらなのか。少し納得してから、頬にある彼の手をやんわりと押し戻した。もうこれ以上触れ合っていると色々な意味で泣きそうだ。「ごめん、いやだった?」と目に見えて落ち込む彼にあわてて弁解の言葉を考える。けれど上手い言葉は出てこず、私にもう一度謝ってから彼は帰ってしまいそうになる。それはだめだ、折角のチャンスじゃないか。必死で自分の体を動かして、風に揺らぐコートの裾を控えめに引っ張る。



「ま、まって吹雪くん」
「え」



引き止めたはいいものの、続きはどう頑張ってもつむげない。諦めてしまおうかと思ってコートから手を離そうとすれば、先に彼の真白い手がそれを掴む。その手は私の手よりも冷たかった。人は極度に緊張すると手が冷たくなるという。こんなときにそんなことを思い出してしまう私は都合が良すぎるのだろうか。



「ふふ、やっぱりキミは可愛いね」



なんだかいきなり誉められてよくわからないまま、ぐいっと力強く引き寄せられて手とは正反対の温かい体に包まれた。



「あああ、ああ、あの…!」
「いつ言おうか迷ってたんだけど、今言っちゃっていいかな?」
「な、なにを…?」
「好きみたいなんだ、キミのこと」


雪と冬の寒さなんてとうに忘れてしまった。



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