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「別れよう」「えっ」
その言葉はずいぶんと急で、前ふりとか前座とかそういった類のものはなにもなく、帰り道に突然告げられたものなのであった。
先輩とはまだ一ヶ月ほどの付き合いであり、まだまだこれからだろうなあなんて思っていた途端で、そんな、別れるだなんてかんがえは微塵もなくって、ああどうしよう俺すごく混乱してる。



「なんで、ですか先輩」
「…ほかに好きな人ができたの」



こちらを向いてない先輩の表情は窺い知れなくて、じわじわと目が熱くなっていく。俺の本心の部分が、別れたくないと必死で主張しているんだ。
思えば告白は俺からで、先輩がうれしそうに笑って承諾してくれたから、両想いだと勘違いしてしまったのが始まりだったのかもしれない。もしかしたら先輩はもともと俺のことなんてどうも思っていなかったのかもしれないし、そもそも後輩の俺と付き合ったのもなにか他に考えがあったのかもしれない。好きだと思っていたのは、俺だけだったのか。
そう思うとなんだか視界がぼやけてきて、泣いてる自分が情けないのにぼろぼろと涙が零れてくる。別れたくないです、と縋り付いたら、先輩は心変わりしてくれるんだろうか。
「なーんて、」先輩が振り返って、また無邪気な笑顔を浮かべている。と思ったらみるみるうちに顔が真っ青になって、慌てながら俺の頭をあやすように撫で始めた。「ごめん、ごめんね」なんて何度も謝って、その温かさに涙が収まってしまった。



「嘘、なの」
「…は?」
「今日は四月一日だから、…嘘だったんだけど」



まったく、この人には振り回されてばかりだ。
怒りなんて通り越して安心してしまって。潤む視界を手で拭ってから、苦笑する先輩に口付けた。すると先輩は口を押さえて真っ赤になったので、なんだか笑えてしまう。



「俺は先輩と別れる気なんてさらさらないっすよ」
「はずかしながら、私もです」



そういって照れ笑いする先輩は、なんとも可愛らしいものだろうか。






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