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放課後、図書室でサッカー部の練習が終わるのを待つのが日課になっている。
冬空に星が浮かぶころ、私以外の誰もいなくなった教室の扉を開けるのは、いつも通り。彼氏の次郎である。待たせたな。ううん、ぜんぜん。毎日だいたい同じようなやりとり。読みかけだった本にしおりをはさむ。それを鞄の中にいれて立ち上がると、次郎が近くにきていて、彼の香りがする。帝国学園にはシャワーもきちんと設備してあるので、染み付いた汗の匂いよりも石鹸の香りがとても強い。でも私はその石鹸の香りがあまり好きじゃない。なぜって言われると困るんだけど、汗の匂いのほうが、なんだか好きだとおもう。



「かえろっか」
「おう」



自然と差し出された手。いまだにこれは慣れずに、どきどきする。次郎はそんな素振りも見せずに躊躇う私の手をとって、こんな強引なところも、好きだなあ。とかバカみたいに幸せにおもってしまう。
外は暖房の効いた図書室とは打って変わって、刺すように冷たい風が吹いているので、思わず身震いをする。日中はそんなに寒くなかったから、と油断してマフラーを置いてきて後悔。吐く息は白く空に溶けて、その冷たさを私に実感させた。



「さむ…」
「マフラー、どうしたんだよ」
「んー、なんか、今朝寒くなかったから置いてきちゃって」



そういって苦笑すると、次郎は大きくため息を吐いた。ばか。と罵られるけど、その言葉からはなんだか温かみが感じられて、頬がゆるむ。すると、変なやつ。だなんて笑い混じりに言われて、首元にふわふわした人肌くらいのぬくもりを感じる。次郎のマフラーだ。



「え、いいよ、次郎寒いでしょ?」
「お前のほうが寒そうなんだよ」
「うわっ」



黙って巻かれとけ。と大雑把に首にぐるぐる巻かれるマフラーには、次郎の匂いがついていて。それに包まれている私はなんだかとっても幸福におもえる。これは自惚れなんだろうか。



「ありがと、う」
「…ああ」



マフラーを巻くために向かいあってた体は、また家に向かって進みだす。さっきまで繋がれていた手は離されて、今はお互いのポケットに収まっている。(もしかして、照れてるのかな。)こっちを向かない次郎の顔を覗き込むと、片腕を引かれて、身構えるよりも前に頭を押さえつけられる。言葉を発そうとしても、圧迫されているせいで篭った声しかでてこない。なんとか、どうしたの?と強めに問えば、抱きしめる力が強くなった。いったい、どうしたんだろう。



「いま…顔か崩れてるから、みるなよ」
「…は?」
「見ないって約束するなら離してやる」
「みないから、はなして」



細い、力強い腕から開放されて、真っ先に次郎の顔を見る。
暗い闇の中でもわかるくらい赤くなったその頬が、私も伝染してしまう。さっきまでの寒さなんて比にならないくらいの熱さ。思わずマフラーに顔をうずめると、また次郎の匂いがして逆効果。



「みるなって…、いっただろ…」
「ごめん…」



熱くなった顔を隠すように俯くと、かえるぞ。と次郎がちょっと不機嫌そうに言った。怒ってる、と不安になってしまったのも束の間。
いつの間にか繋がれていた手が、彼は照れているだけだと教えてくれたのだ。






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