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今年もこの季節がやってきた。教室の雰囲気が妙に浮きだっている、この季節が。特に男どもなんて、女子と接触する度に気分が高揚しているのがよくわかるほどだ。
しかし情けないとは思わない。なぜなら、昨年まではそれを傍観する身だった俺も、今年はクラスの男どもと同じようにそわそわとしてしまう立場だから、だ。…その前に、あいつはチョコレートというものを作ってきているのだろうか。どこか面倒くさがりな女だ、作ってきていないかもしれない。
その可能性も十分あり得るということで、昨日の休日に夕香から(ほとんど無理やり)チョコレートを作らされた。今年は逆チョコとやらが流行しているらしい。料理は慣れているのでそこまで苦戦はしなかったが…。
鞄に目をやる。妹の選んだ可愛らしいラッピングが見えて、恥ずかしさがこみ上げてくる。こんなにも女らしいものを俺から、なんて言えるわけもなく。申し訳ないと思いながらも、夕香の名前を借りてこの包みを早急に渡すことにした。



「えっ、夕香ちゃんが私に?」
「ああ…、受け取ってやってくれないか」
「わあ、本当?ありがとう!今日、お礼に行かなきゃね!」
「…い、いや、それはいいだろ!」



それはまずい。もしもこの嘘…がばれたら、夕香にもこいつにも軽蔑されるに決まっている。なんとか阻止しなければ、と脳をフル回転させる。



「え、どうして?」
「それは…あの…ああ、今日は…あまり体調が良くないみたいなんだ」
「そうなの!?それじゃあ無理させないほうがいいね…残念…。」
「あ…礼を言ってた、って伝えておくよ」
「うん、お願いね!」



残念そうに俯くこいつに罪悪感が込みあげたけれど、次の瞬間には明るい表情に戻っていた。ころころと百面相する彼女が、なんだかとても面白い。
と、微笑んでいた彼女が今度は斜め下に視線を落とすのが見えて、どうした?と声をかけると、顔をあげる。その頬はすこし赤くなっていて、例えるならば赤い果物のようだった。



「あ、あの…ね、あたしも一応、チョコを、作ってきたんだけど…」



先ほどの俺の予想は外れたらしい、が、うれしい誤算だ。…うれしいといっても、それが義理か本命かという問題が残っているわけだが、この雰囲気は義理というようなものではない気がした。直感的に、すこし意地悪を言ってみることにする。「誰に、だ?」問えば、彼女は色づいた頬をもっと赤くさせて、潤んだような瞳で俺を見上げる。無意識か否か…と悩んだが、こいつは意図的にこんなことができるほど器用な人間ではない。



「とりあえず…豪炎寺くんに。というか、豪炎寺くん、だけに。」



そう言ってはにかむ彼女は、なんと愛らしいのだろうか。やはり嘘をつくのはやめにして、夕香にふたりで会いにいこうと思った。あまりの感情の高まりに、片手で顔を隠しながら差し出されたそれを受け取ると、照れてるの?と笑いを交えて言われたので小突いてやった。





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