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立向居くんと初めてデートをした。時間を決めて駅前で待ち合わせして、話題になっている映画をふたり並んで見て、お茶がてら映画の感想を語ったりして、立向居くんの可愛らしい笑顔に心を躍らせる。
いつもサッカーの練習で忙しい彼とのデートらしいデートということですこし緊張もしたけれど、とても楽しくて時間を忘れてしまうくらいだった。それは立向居くんも同じようで、帰りの電車の中で「今日は楽しかったです」と言ってくれて、なんだか照れてしまう。(その後はあまり彼の顔を見ることができなかった。)降りる駅が近づいて、立向居くんにその旨を言えば、送りますと言った。



「え、いいよいいよ、立向居くんの家、遠いし」
「このくらいさせてください、彼氏なんですから」



彼は照れ笑いして、私の腕を引っ張る。行動とは裏腹に強引な雰囲気なんて微塵もなくて、安心してしまう。ちゃんと、男の子なんだなって思った。
改札を通ると、立向居くんは立ち止まって私のことを見た。なにかあったのかと私も見つめ返す。ぐっと閉じられた口と、決心の篭ったような瞳になにも言えなくなってしまう。いきなり、どうしたんだろう。



「先輩、」
「なに?」
「…その…」



話を切り出したまではいい。そこからは躊躇するようにきちんとした言葉がつむげなくて、「あー」だとか「うう…」だとか、迷っているような悩んでいるような素振りを見せている。もどかしくなってきて先を促すと、さっきとは打って変わって不安定な瞳で私を見つめてきて、ひるんでしまった。とりあえずは、相も変わらず唸っている彼の頭を撫でてやって、落ち着かせようと試みる。すると、こちらを見て頬を緩ませて、決心したように薄く開いた口から息を吸う。



「今日一日中、ずっと言い出せなかったんですけど…」
「ん、うん」
「あの…手を、…手を繋いでもらえませんか…?」



最後は消え入ってしまいそうな声だったけれど、きちんと私の鼓膜を震わせた。立向居くんは謙虚で、あまり自分の意見を言い出せない子だから、もしかしたらずっとそう思ってたのかもしれない。…なんだろう。すごく恥ずかしいのだけど、すごくうれしい。幸せと彼の可愛さをかみしめていると、「先輩?」と心配そうに投げかけてきた。私は緩んだ頬を隠すことも忘れて、彼に片手を差し出す。



「あ…、」
「きちんと、エスコートしてね」



すこし意地悪く笑ってみると、立向居くんは嬉しそうに私の手をとって、あの太陽のような笑みを向けるのだ。夜風が体を芯まで冷やしてしまいそうだけど、繋がれた右手から伝わるぬくもりで、むしろ暑いくらいだった。





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