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「足、イタい」と高めのヒールのついた小洒落た靴を持ち上げて言う。靴擦れしたみたい。上目で私を見ながら、彼女は涙目で訴えるように立ち止まる。



「…背伸びしようと、そんな靴履くからだよ」
「だって…」



まったく、世話がかかる。ため息を小さく吐けば彼女は俯いて、掠れたような声でごめんなさい。と呟く。別に、謝らせようとして咎めたわけではないというのに。
さて、どうしようか。とりあえず外出の目的はもう済んだのだから、帰るだけなのだけれど、彼女の様子からして歩いて帰るのは無理なようだ。かといって新しい靴を買い与えるのもあまり進んでできることではない。ならば…こちらもあまり気が進まないが、手っ取り早い方法だ。幸いここからならば人通りも少ないし、あまり歩く距離も遠くはない。



「…おぶってやる」
「え、」
「帰って報告しなきゃいけないから、はやく」
「…う、ん」



渋々といった様子だが、彼女は了承して、私の背中に戸惑いがちに身を預けてきた。思っていたよりも幾分軽かったので、すこしだけびっくりしてから立ち上がった。背にあたる人肌の熱が温かく、むずむずとこそばゆいような感覚を呼び起こす。無言で足を動かしていると、後ろから謝罪の声が聞こえる。



「迷惑かけちゃって、本当にごめんなさい」
「らしくないね」
「え?」
「君が変にしおらしいと、反応に困ってしまう」



いつもなら、私の嫌味なんてあまり気にしない様子で、無邪気に笑って流してしまうのに。本当に、どうしたの?と聞くと、肩に添えられた手に力がこもって、彼女は消え入るような声で言う。「だって私、重いでしょ?」思わずふきだしてしまった。



「なっ…なんで笑うの!」
「いや…やっぱり君はいつも通りだったね」
「どういうこと?」
「発想がくだらない」
「…ひどい!」



足をバタつかせる彼女を見て、やっといつもの調子に戻ったと感じた。あんまり暴れると落として帰ってしまうよ?と脅すと、押し黙って静かになる。がぜる。と名前を呼ばれて振り返れば、ありがとうと笑った彼女と夕日が重なって、眩しく見えた。





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