LOG | ナノ


どしん、とあられもない音をたてて転んでしまった。手に持っていたサッカー雑誌がバラバラとちらばり、私に絶望と悲愴をもたらす。またやってしまった、最近躓いてばかりだ。お兄ちゃんにも呆れたように「お前には警戒心が足りない」だなんていわれるし、木野先輩にだってよけいな心配をかけてしまうし。もしかしたら今年は厄年、というやつなんだろうか。また年も始まったばかりなのに、幸先が悪い。



「あの…、大丈夫?」
「えっ」



もんもんと考えをめぐらせていると、頭上から天の声が振ってきた。見上げれば、木野先輩とよくいる人だ。その人は私の手を差し出し、天使と見間違えるかのような微笑みを向けてくださっている。
今、神様の目の前にいます。
あ、いいフレーズかも、とか新聞部の血が騒いでいるのを沈めて、先輩の好意を無駄にできまいと、おずおず手を重ねさせていただいた。しなやかなやわらかい手は冬だからか、冷たかった。けれどその体温を心地良いと思ってしまう。「はい、これ」先輩は、先ほどばらまいてしまった雑誌をいつの間にか広い集めてくださっていて、私に差し出す。なぜか緊張してしまって、虫の羽音のような声でお礼をいうことしかできなかった。



「あ、血がでてる」
「えっ、あ、ほんとだ」



先輩の目線を追って私の膝を見れば、なんとも痛々しく擦りむけていた。しまった、絆創膏はちょうど昨日円堂さんにあげたので最後だったんだ。でも部室の救急箱にならあるかな。
先輩にこれ以上お世話をかけるわけもいかないから、これで失礼します、と言おうと思ったら。保健室にいこう、と握られていた手を引っ張られる。そういえば手、繋いだままだった。私の手から滲む汗が、先輩にいやに思われないか気が気じゃなかった。
保健の先生はいらっしゃらなくて、呼んでくるのは面倒だからと先輩は慣れた様子で絆創膏と消毒液を棚からとりだした。



「保健室には、よくいらっしゃるんですか?」
「んえ、どうして?」
「なんか先輩、慣れてるように見えますから」
「あー…」



先輩はすこし言葉を濁らせると、ここはグラウンドがよくみえるから、とぽつりと零した。その目はなんだか憂いを帯びていて、聞いてはいけないことを聞いてしまったような、そんな罪悪感を抱かせた。外ではサッカー部のみなさんが練習していて、私も早く部活に出なきゃと思いながらも、もうすこし先輩と一緒にここにいたいと願っている。けれど先輩は、外でサッカーをしている誰かを見ている。擦りむけた膝が静かにずきずきと痛みはじめた。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -