HAPPY BIRTHDAY
去年のバーナビーの誕生日はうまく祝ってやれなかった。
計画したサプライズは本物の窃盗団が現れて失敗に終わった。
アントニオは警察に連れてかれちまうし、まあ結果としてポイントをやったら喜んでたみたいだから良かったんだけど。
けど、俺はもっとバニーの喜ぶ顔が見てみたい。
この一年、いろんなことがあって去年と今年とじゃだいぶ事情が違う。
取っ付きにくい今時の若者って感じだったバーナビーも随分と打ち解けて、かなり印象が変わった。
他のヒーローたちとも積極的に話すようになったし、俺のことをおじさん、だなんて呼ばなくなった。
一緒に飲みに行くようにもなったし、その流れでバーナビーの部屋に泊まりに行くことだってあるくらいだ。
バーナビーのいろんな事情も知った。家族のこと、ウロボロスのこと、今まで復讐のために生きてきたことも。
ウロボロスの件が片付いて以来、バーナビーはいい笑顔を見せるようになってきた。
だから誕生日も、心から笑わせてやりたいんだ。
バーナビーの誕生日当日の朝、俺たちはヒーロー事業部で顔を合わせた。
俺が出勤すると、バーナビーはもうデスクに向かってキーボードを打っていた。
俺に気付くとバーナビーは手を休め声を掛けてきた。
「おはようございます、虎徹さん」
「おはよう、バーナビー」
誕生日なんて忘れてるふりをして過ごそうかとも思ったけど、俺が言わなくても誰かが言うだろう。
それに、バニーに夜の予定を空けておいてもらわないと困る。
「あのさ、バーナビー、今夜って予定空いてる?」
「ええ、どうかしましたか」
キョトンとした顔をするバーナビーに虎徹は笑みを向けた。
「お前、今日誕生日だろ。ちょっとおじさんに付き合えよ」
「どうして僕が、僕の誕生日におじさんに付き合わないといけないんです?」
可愛くない言い草だが、バーナビーの目許は微笑んでいる。
これは、じゃれているだけだ。
「いいから、付き合えって。奢るからさ」
「いいですよ、どこに連れて行ってくれるのか楽しみにしています」
これで最大の難関は突破した。
実は、俺は今年もサプライズを計画していた。と言っても去年みたいなのとは違う。
今年はヒーロー全員を巻き込んで、賑やかに祝ってやる予定だ。
幼い頃に両親を亡くしたバーナビーは、友達を家に招いての誕生日会なんてしたことがないに違いない。
だから、ホームパーティーってのはちょっと無理だけど、大勢でアイツの誕生日を祝ってやろうと思った。
勿論、バーナビーには内緒で。
今日はこれから取材とテレビ番組の収録の予定で、事件が起きなければ他のヒーローと遭遇することはない。
スカイハイあたりに会うことがなければいいんだが。
アイツはいい奴なんだけど、天然だからなァ。
結局、俺の心配は杞憂に終わり無事にその日の仕事を終えた。
時計の針は6時を指している。
仕事を終えるにはまだ早い時間だが、俺達は会社を後にした。
「今日は随分と早く終わりましたね」
「あぁ、今日はバーナビーの誕生日だから。早く終われるようにしてくれって頼んどいたんだ」
「そうだったんですか」
以前なら、そんな勝手なことをして、なんて怒られただろうが、もうそんなことは言われない。
そのことが嬉しい。
けど、少し淋しくも感じるのは何故だろうか。
酒を飲むつもりだったから、車は会社に置いて店まで歩くことにした。
もう10月も終わる。
つい最近まで6時を過ぎても明るかったような気がするが、今はもうこの時間には外は完全に夜だ。
街灯が灯る通りをバーナビーと並んで歩いた。
「もう、すっかり秋だなあ」
「そうですね」
他愛もない会話をしながら夜道を歩くと、程なく目当ての店が見えてきた。
「ほら、この店だ」
「ここって……、僕が行ったらまずいんじゃ」
俺がバーナビーを連れて来たのは、俺の行きつけのヒーローズバーだ。
かつてはブルーローズもここで歌い手としてバイトをしていた。
俺やブルーローズは正体を隠してヒーロー業をしているから問題ないが、正体を明かしているバーナビーがこの店に入れば大騒ぎになるに違いない。
バーナビーが心配しているのはそのことに違いなかった。
「大丈夫、今日は貸し切りだから」
「えっ……」
「ほら、先行けよ」
戸惑うバーナビーの背中を押して先に行かせ、俺はバーナビーの後ろをゆっくりと進んだ。
店内は薄暗く、しんと静まり返っていた。
バーナビーが足を踏み入れるとピアノの音色が流れ出した。
曲は勿論、ハッピーバースデーっていうあの曲だ。
ピアノの音色にカリーナの歌声が乗り、そこへスカイハイに折紙、ドラゴンキッドやアントニオの歌声も重なる。
俺もバーナビーの背後から、その合唱に参加した。
「ハッピーバースデー、ディア、バーナビー」
ネイサンが蝋燭を燈したケーキが乗ったワゴンを押しながら現れ、バーナビーの前にケーキをセッティングする。
「ハッピーバースデー、トゥーユー」
歌は終わった。
だが、蝋燭は消されないままだ。
俺からはバーナビーの背中しか見えなくて、バーナビーがどんな表情をしているのかは見えない。
「バーナビー、蝋燭消せよ」
俺はバーナビーの肩に手を置き声を掛けた。
バーナビーが振り返る。
その瞳には涙が溜まっていて、だけどバーナビーは綺麗な顔をくしゃりと歪めて笑ってくれた。
もう色んな人がやらかしているネタでしょうし、ぶっちゃけ虎徹がこんなスマートにバーナビーのこと祝えるわけがないってわかってるんですけど!!!きっとこれ、虎徹の夢オチです^^