ディなのにおいしそう
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SIDE・B


「本当に期待を裏切らないね、君たち!」
「……すみません」

 スピーカー越しの斉藤の大きな声に、バーナビーは大きく肩を落とした。
 ターゲットは無事に確保し警察に引き渡すことができた。彼の身柄はこのままNEXT専門の刑務所へと移送される。従業員の女の子たちも徐々に元へ戻り始めたらしい。ただひとつ、タイガー&バーナビーは大きなミスを犯した。ターゲットに触れずに確保しなければならなかったのに、うっかり触れてしまったのだ。

「しかも二人揃ってなんてな!スーツを脱いだらどうなってるのかぜひ調べさせてくれないか!」
「……丁重にお断りします」

 虎徹とバーナビーは二人揃ってNEXTの能力を受けてしまった。どうやら変化する動物というのは能力者本人や変化する側に選べるわけではなく、自分が潜在的に似ていると思っている動物に変化してしまうらしい。
 今、バーナビーには白くて大きくて長い耳が生えている。お尻の辺りもムズムズするので尻尾もあるに違いない。確かめてはいないが、虎徹にはきっと虎の耳と尻尾が生えているのだろう。
 トランスポーターの中でヒーロースーツを脱いだバーナビーは、自分の姿を見て溜息を吐いた。案の定尻尾が生えているようで、アンダースーツの中でその部分が丸く膨らんでいる。アンダースーツの上から感触を確かめようと触れてみると背筋にぞわりという感覚が走った。……どうやらあまり触れないほうがよさそうだ。
 動きのない虎徹に視線を向けると、彼はトランスポーターの隅でヒーロースーツも脱がず身体を丸めている。バーナビーはそんな虎徹の様子が気になって声を掛けた。

「虎徹さん?大丈夫ですか?」
「……あぁ」

 虎徹は短く返事をして立ち上がる。その際によろけた虎徹に、バーナビーは慌てて駆け寄った。

「ほんとに大丈夫ですか?どこか怪我でも」
「……俺に触るなっ!」

 バシッと、渇いた音が響いた。打たれた頬を押さえバーナビーは立ち尽くす。虎徹も自分の行動に動揺したようで、バーナビーから視線を反らせた。

「悪ぃ、大丈夫だから。……着替えてくるわ」

 いきなり頬を打たれるなんてわけがわからない。バーナビーは茫然と虎徹の背中を見送った。目の端に涙が浮かんでくる。
 打たれた頬は痛いが、子供じゃあるまいし泣くようなほどではない。……ただ、虎徹に拒絶されたようで、悲しかったのだ。理由を理解して、バーナビーは口端を歪ませながら手の甲で涙を拭った。
 
 バーナビーと虎徹を乗せたトランスポーターは出動先からアポロンメディアのあるゴールドステージへと向かっている。
バーナビーが落ち着いた頃、普段着へと着替えを済ませた虎徹が戻って来た。虎徹の頭にはやはり立派な虎の耳が生えている。耳が邪魔をしてお気に入りのハンチングを被ることができないようで、手にハンチングを握りしめていた。

「随分と可愛らしいな、タイガー!」
「うるせーっ!」

 斉藤からのツッコミを笑顔で返す虎徹はいつも通りの彼だった。先程頬を打った虎徹とは違う。さっきの彼は、まるで……。

「バニー、さっきは悪かったな。マジでゴメン!」
「……いえ」

 両手を合わせ頭を下げる虎徹の姿にバーナビーは肩を竦める。よかった、いつもの虎徹さんだ。耳は生えているけれど。

「なぁ、タイガー。その耳どうなってるんだ?調べさせてくれないか!身体能力も変化しているのか!?」

 変化した二人に斉藤はやはり興味津々らしい。虎徹は肩を竦めてバーナビーを振り返った。

「バーナビー、お前も早く着替えてこいよ。んで、早く逃げ出そう。斉藤さんにモルモットにされちまう」
「聞こえてるぞ!タイガー!」

 バーナビーは笑って着替えに向かった。さっき虎徹に対して感じた恐怖はきっと、気のせいだ。バーナビーが不用意に触れようとしたから警戒しただけなのかもしれない。猫だって触れて欲しくないときに触れようとすれば手を払って威嚇してきたりする。それと同じ反応をしただけだろう。
 着替えに向かうバーナビーの背中を、暗い瞳で虎徹が見送っている。
 バーナビーの背筋にぞわりとした感覚が走った。ここから逃げ出さねば危険だ、本能がそう告げる。しかしバーナビーはそんな考えを振り払った。気のせいだ、全部。兎の姿になって臆病になってしまったのだろうか。……虎徹さんのことが、怖くてたまらない、なんて。

 バーナビーが着替えを終えて戻ると、虎徹は穏やかな笑みを浮かべた。バーナビーがよく知る、いつもと同じ虎徹の笑顔だ。

「どうする、このままアポロンメディアに戻っていいか?」
「いや、今日は疲れたし、この格好じゃからかわれるからなァ」

 虎徹はちらりとバーナビーに視線を向けた。

「お前んち、行ってもいいか?」
「えっ、……まぁ、いいですけど」

 虎徹がバーナビーの部屋を訪れるのは近頃では珍しいことではない。ゴールドステージにあるバーナビーの部屋からの方が虎徹は出勤するのが楽なのだ。その味を占めたのか、最近では夜遅くなったときなどたまに宿代わりにされている。

「斉藤さん、バーナビーんちまで送ってって」
「わかった!」

 二人を乗せたトランスポーターがバーナビーのマンションに到着するまで、虎徹と斉藤は調べさせろ、嫌だ、というやり取りを繰り返し、バーナビーはそれを笑って見守っていた。



 
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