ンサムな彼女
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SIDE・B


「俺の部屋に来るのは初めてだったよな、お前の部屋には何度か行ったことあるけど」
 初めて訪れた虎徹さんの部屋は、意外と片付いているな、というのが正直な感想だった。僕は部屋にハウスキーパーを入れているが、彼はそんなことはしていないだろう。酒の空き缶や空き瓶が転がっている以外には、特に目に余るようなことはなかった。
 キャビネットの上には何枚かの写真が飾られている。僕が視線を向けているのに気付くと、虎徹さんはひょいとフレームを手に取り僕に見せながら話をしだした。
「これが俺の奥さんの友恵。こっちは娘の楓だ」
「綺麗な人ですね」
「だろ?」
 虎徹さんは嬉しそうに目を細める。彼はやはり、まだ奥さんのことが好きなんだろう。わかってはいたことだけど胸がちくりと痛む。
「楓には、お前も会ったことがあるんだぜ」
 思い当たる節が無くてバーナビーは首を傾げる。
「お前と会ったばっかの頃に、スケートリンクで女の子を助けただろ。あれ、楓」
 虎徹に言われ、そういえばそんなこともあったと思い出した。しかし顔まではちゃんと覚えていない。写真の少女の顔は笑った顔が虎徹さんに似ていると思った。
「話ってのはさ」
 唐突に切り出されてバーナビーは身構えた。話がある、そう言われてこの部屋までついて来たが何を言われるのか怖かった。怖さに堪えかねて、バーナビーは自分から話を振る。
「……うさぎちゃんのほうの僕は満更でもなかったでしょう。どうしてふったんですか」
「それは……、俺が、バニーのことが好きだから」
 思いもかけない虎徹の返答にバーナビーは大きく瞬きをした。
「……なに適当なこと言ってるんですか」
 バーナビーの語尾は震えている。握りしめた手のひらに爪が食い込む。
「マジだって、俺は、バニーのことが好きなんだ」
 バーナビーは虎徹の言葉を額面通りに受け取れない。
「僕は……、あなたに2度も告白もしました。でも全く相手にされなかった。なかったことにしたのはあなただ」
 虎徹も負けじと言い返す。
「だって、んないきなり好きだとか言われても。それにお前男だし」
「ほら、あなたの中では僕が男だというだけで僕を選ぶ選択肢はないんだ!」
上げ足を取られ押し黙った虎徹にバーナビーは畳みかけた。
「だから、僕は女になればあなたに振り向いてもらえると!結果はふられてしまいましたけど。でももういいんです、男の僕じゃ可能性なんて万に一つもなかったけれど、女になってあなたに抱かれることができた」
「ちがう、俺は」
虎徹はバーナビーの腕を掴んだ。その手をバーナビーは振り払う。
「あなた、優しすぎるんですよ。期待させるようなことばかりして、だから好きになってしまう」
「俺が悪いのかよ?」
「そうです!はっきりしないあなたが悪い。僕が告白した後も、あなたは何もなかったことにして普段通りに接してきて、あなたがさりげなく僕の肩に触れたりするだけでどれだけ僕がドキドキしていたか、あなたにわかりますか?」
顔を真っ赤にしてまっすぐに怒りをぶつけてくる、そんなバーナビーの姿を虎徹は愛おしいと思った。自分より5センチだけ背の高いハンサムな相棒の頭をくしゃりと撫でる。
「触らないでください」
 バーナビーの瞳には涙が溜まっていて、虎徹は弱って眉尻を下げた。
「なぁ、泣くなよ、バニーちゃん」
 虎徹の唇がバーナビーの額に触れ、視線が合うと唇を重ねられた。虎徹の行動が信じられなくて、バーナビーは目を丸くする。
「……どうしてキスなんてするんです?僕は男ですよ」
 バーナビーの言葉に虎徹はプッと吹き出した。
「んなこた、知ってるよ。キスしたいって思ったから、したんだ」
 視線を絡ませ、今度はどちらからともなくくちづけを交わす。
「なぁ、バニー。お前が好きだ。信じてくれねぇか」
 虎徹が嘘をつけない性格だということは知っている。だからきっと、虎徹さんの言葉は本当なんだろう。でも素直に喜ぶには虎徹の言葉はくすぐったくて、バーナビーは意地の悪い返しをしてしまう。
「ねぇ、虎徹さん。……キスもセックスも、僕はあなたが初めてだったんですよ。なのに、随分色々と無茶してくれましたよね」
思いも寄らない返しに虎徹は戸惑う。
「え、あ……、その、悪かった、ゴメン!」
虎徹の困った顔に満足し、バーナビーの顔に笑みが浮かぶ。
「虎徹さんは、ああいうプレイが好きなんですか?」
「だっ!もー、やめて!ゴメンってば!」
虎徹の顔が赤くなるのを見て、バーナビーは声を上げて笑いだした。幸せだと思った。怖いくらいの幸せだ。好きな人に好きだと言ってもらえることは、こんなにも嬉しいものなのか。じわじわと胸に込み上げてくるものがあって、バーナビーは笑いながら涙が溢れた。



 
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