ハンサムな彼女
「犯人の一団は、湾岸道路を港へ進んでいるわ。道路は封鎖して、一般車両は入れなようにしたから、思いっきり暴れて頂戴。いいとこ見せてよ〜!」
虎徹が現場に駆け付けた時には、ファイヤーエンブレムが道路に火を放って退路を断ち、待ち構えたロックバイソンが走行してきた車を受け止めるという力技で止め、ドラゴンキッドが犯人を車ごと雷で痺れさせるという息の合った連携プレイで事件は収束に向かっているかのように見えた。しかしアニエスは首を捻る。
「いくらなんでもあっさりしすぎだわ、おかしいわね?」
そんな中、虎徹が口を開いた。
「おい、あのヘリ、おかしくねぇか?」
虎徹が示したのはヒーローたちの活躍を中継しているヒーローTVのヘリコプターだ。しかし地上にいる他のヒーローたちは虎徹が何をおかしいと言っているのか理解できない。虎徹は単独で能力を発動し、低空を飛行していたヘリコプターに向かって跳躍しワイヤーを伸ばしてぶら下がった。
「ちょっと、タイガー?何やってるの!」
虎徹の行動が理解できずにアニエスは声を上げる。カメラはきちんとヒーローたちの活躍を撮影しているし問題はないように思えた。だが、急にヘリコプターから中継されていた画面が暗転し何も映さなくなった。虎徹をぶら下げたままヘリコプターはぐんぐん上昇していく。
「どういうこと?ちゃんと中継しなさいよっ!」
その頃地上では、車から犯人が引きずり出されていた。その顔を地上班のヒーローTVクルーがカメラに捉える。犯人の顔を見てアニエスは驚いて目を見開いた。
「そいつ、フランクじゃないわ」
アニエスをはじめ、現場にいるヒーローたちも皆一斉に空を見上げる。虎徹をぶら下げたまま、ヘリは港方面へと飛んでいく。スカイハイが飛び立ち後を追った。
「早くっ!あんたたちも地上から追って!」
スカイハイはすぐにヘリに追い付き並走して飛び始める。
「無駄な抵抗はやめたまえ、速やかに止まるんだ」
しかし当然ヘリは止まりはしない。スカイハイが風を起こしてヘリを止めようとすると、ぶら下がっている虎徹にも被害が及んでしまう。そう気付き虎徹はワイヤーを自ら外して夜の海へと落下する道を選んだ。
「スカイハイ、後は任せた!」
「ワイルド君!」
「大丈夫だ!俺にはハンドレッドパワーがある!」
虎徹はまっすぐに落下していく。スカイハイには大丈夫だと言ったが正直自信はない。実はとっくに能力切れで、あとはもう斉藤さんのスーツを信じて、落ち所がいいように運を天に任せるしかない。
まさに絶体絶命、俺もここまでか。そう虎徹が覚悟した時、落ちていく身体がふわりと浮いた。
「あっ……」
それは初めての感覚ではない。ずっと以前にも同じようなシチュエーションで、虎徹はバーナビーに助けられた。それが二人の出会いだった。
「何やってるんですか、おじさん」
「……バニー?」
「能力切れてるくせに、かっこつけないで下さい。僕が来なかったらどうするつもりだったんですか」
バーナビーにお姫様抱っこされたまま、虎徹は涙が零れ落ちそうになるのを笑ってごまかす。
「俺は、……お前が必ず来るって信じていたからな」
虎徹を地上へと降ろし、バーナビーは犯人の元へと駆けていく。その背中を虎徹は目を細めて見送った。
スカイハイが風を起こしぐるぐるとヘリを回す。ヘリの中で犯人は意識を失い、操縦士を失い落下していくヘリをブルーローズが海面の水を凍らせて空中でキャッチする。凍り付いたヘリの扉をバーナビーがこじ開け、ヒーローTVのカメラマンもヘリを運転していた犯人本人も確保し、事件は無事解決した。
「さすがだな、バニー」
「虎徹さんこと、よく犯人があのヘリにいるってわかりましたね」
「なんか飛び方がいつもと違ったからな、操縦がへたくそでさ」
「さすがです」
「そうでもねーよ、それより、お前が来てくれて助かった。ありがとうな」
「当然のことをしたまでです。僕はヒーローですから」
二人きりのトランスポーターの中で、虎徹とバーナビーは何事もなかったかのように会話を交わした。バニーとの、バディとしてのこの距離感は心地好い。けど、俺はお前に伝えたいことがある。この関係は変わってしまうかもしれないけれど、俺はもうバニーに気を遣わせたり淋しそうな瞳をさせたくはない。意を決して、虎徹は口を開いた。
「あのさ、バニー。この後いいか?大事な話があるんだ」
「……はい」
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