ンサムな彼女
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「……って、そんなわけないよなァ?だって胸もあるし、バニーは男だ……」
「……そうですよ、僕はバーナビーです。うさぎなんかじゃありません」

 バーナビーは自嘲気味の笑みを浮かべる。何もかもばれてしまった。虎徹の胸を押し返し、彼の下から抜け出すとベッドのシーツを引き抜き身体へと纏う。

「な……、うそだろ」
「嘘じゃありません。あなたが初めてこの店に来た時から、ずっとあなたのことを騙してたんです」
「なんでだよ、……俺が、気持ち悪いなんて言ったからか」
虎徹がそのことを覚えていたのはバーナビーにとっては意外だった。
「そうですよ、男なんて気持ち悪いってあなたにフられました。だから、復讐してやろうと思ったんです」
「な……」
「結局、女の格好をしてもフられてしまいましたけど。折角色仕掛けまでしたのにバレてしまいましたね。僕の負けです」
「おい、バニー」
「さようなら、虎徹さん」

バーナビーの身体が青白い光を放つ。能力を発動して窓ガラスを割り、虎徹の制止を振り切ってバーナビーは飛び出していく。
 警報機が鳴り響き、部屋にネイサンとヨーコが駆け付けた。

「ちょっと、アンタなにやったのよ!」
「ちょ、俺だってわけわかんねーよ。うさぎちゃんがバニーで、っていうかお前も俺を騙してたんだな?」
「うっせーな!今はんなこた、どーだっていいんだよ。ハンサムは無事なの?アンタ、ひどいことしたんだったらその粗末なモノもぎ取ってやる!」
「な、ちげーよ。俺がバニーだって気付いたら、あいつ、さよならって飛び出してったんだ!」

 虎徹は慌てて床から下着とパンツを拾い上げて身に付けた。

「どうしよう、ハンサムの行くところ心当たりある?」
「わかんねぇ、けどアイツ服着てねぇぞ」
「今確かめてえみたけど、財布も部屋の鍵も携帯もなにもかも、置いたまんまね。そう遠くにはいけないはず」

 ベルトの金具も締めないまま、虎徹は飛び出そうとした。

「探しに行くッ」
「待ってよ、そんな闇雲に探して、アンタ、当てはあるの?」

 その虎徹の腕を掴み、ネイサンが問いかけると虎徹は頭を振る。

「わかんねぇ、けど、見つけないと」

 ヨーコと顔を見合わせ、ネイサンはため息交じりに口を開いた。

「わかったわ、ワタシたちも心配だし手分けして探しましょ」

虎徹は夜の街へと駆け出した。でも、どこへ向かえばいいのか全く見当がつかない。ネイサンとヨーコも探してくれているが、バーナビーは見つからないままだ。

「どこ行っちまったんだよ、バニー……」

虎徹が途方に暮れているとPDAが鳴り出した。バーナビーからの連絡かと飛び付くも、コールの相手はアニエスだ。

「すこーし夜も更けてきちゃったけど、久々の事件よ。アッバス刑務所への移送中に犯人が逃走。逃げたのはフランク・ハンラティ。麻薬密輸組織のボスで、背後には逃走を手助けした仲間がいるわ。つまり犯人は複数犯、護送車の運転手の話によれば、彼本人が車を停めたんだけど前後の記憶がまるでないらしいの。つまり、犯人の中に何らかのNEXTがいる模様。気を付けてね」

久し振りの事件に興奮気味のアニエスは、虎徹に口を挟む暇も与えないまま一方的に喋り立てる。

「だッ!ここんとこずっと事件なんてなかったじゃねーか」

よりによってこんな時に事件が起こらなくてもいいだろう。ヒーローとしての仕事は勿論大切だが、今はバーナビーを見付けることの方が最優先だ。
そんな虎徹の思考を読んだわけでもないだろうが、タイミングよくアニエスが問い掛けた。

「そういえば、バーナビーが応答しないのよ、タイガー知らない?」
「俺だって、アイツの居場所教えてほしいくらいだよっ!」

バーナビーと喧嘩でもしたのだろうか?いい年した大人が何をしているんだか。バーナビーが捕まらないのは手痛いが、久々の事件なのだ。何が何でも盛り上げて視聴率を稼がないと。

「とにかく、事態は一刻を争うわ。早いとこ犯人を見つけ出してちょうだい!」

アニエスからの通信が切れると、またPDAが鳴り出した。今度こそバーナビーかと思ったが、今度の相手はネイサンだ。

「うさぎちゃん探しから麻薬密輸組織のボス探しにチェンジってわけね」

ネイサンの口ぶりは冷静で、それに対し虎徹は少々熱くなる。

「なっ、おまえだってさっきまでバニーのこと探してたじゃねぇか。俺はバニーを探すぞ」

虎徹がきゃんきゃん吠えてもネイサンは涼しい顔だ。

「おバカね、タイガー。これはチャンスかもよ?」
「チャンス?」

おバカで可愛いタイガーに、ネイサンは自分の考えを伝える。

「逃げ出しちゃったうさぎちゃんをおびき寄せるチャンスよ。アンタ、どうしてうさぎちゃんがハンサムだって気付いたの?」
「それはPDAをしてたから」
「そうよ、あの子、服は脱いでもあれだけは外さないって、自分はヒーローで、これはアンタと繋がっている証だから外したくないって言ったのよ」
「アイツ、そんなこと……」
「だから、ハンサムはきっと来るわ。だって、次期KOH候補だもの。来るにきまってるじゃない。だから、犯人を捜すわよ」
「……そうだな、アイツはきっと来る」

そうだ、バニーはこのシュテルンビルトを守るヒーローなのだ。事件が起これば絶対に現場に駆け付けずにはいられないはずだ。
決心の付いた虎徹の前に斉藤の乗るトランスポーターがタイミング良く現れた。

「タイガー、バーナビーはどうした?」

拡声器を通した馬鹿でかい斉藤さんの声に頭がキーンとなる。

「だっ!どいつもこいつも、なんで俺にバニーの居場所聞くんだよっ!」

周りが思うほど、俺はバニーのことを何にもわかっちゃいない。探したくたって、情けないことにアイツの行きそうな場所の一つも思い浮かばない。
でも、俺は信じてる。バニーは必ず駆け付けるって。
虎徹は一人、トランスポーターに乗り込みヒーロースーツに着替えた。隣に視線を向けてもバーナビーの姿はなく、そこにはバーナビーのヒーロースーツがあるだけだ。虎徹はそのスーツの胸元の兎のマークを指先でなぞった。

「先行ってるぞ、待ってるからな」



 
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