ンサムな彼女
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SIDE・T


うさぎちゃんのことは可愛いと思う。まだ二回しか会っていないけれど、外見だけじゃなく中身も素敵な女の子だと思う。本当に、素直でいい子なんだ。けど。……どうして俺のことなんか好きになっちまうんだ。うさぎちゃんも、……バニーも。
ネイサンは、うさぎちゃんは俺のファンだと言っていた。あんな可愛い子にファンだなんて言われたら、そりゃ悪い気はしない。けど、うさぎちゃんの俺への好意はどうもファンの域を超えている。もう会わないほうがいいんだろうな、虎徹がそう考えていると携帯が鳴りメールの着信を知らせた。メールの送り主はうさぎちゃんだ。
”また、お会いしたいです。次はいつ会えますか?”
そうだ、うっかり連絡先を交換しちまったんだった。そのことに気付き、虎徹は大きく肩を落とした。
着信拒否や受信拒否をしてしまうこともできる、けれどいきなりそんなことをしたら彼女は戸惑うだろう。虎徹はこれで最後だと自分に言い聞かせ、彼女の元を訪れることにした。
虎徹の顔を見ると、彼女は花の蕾がが綻ぶような笑顔を浮かべる。

「また会えて嬉しいです」

彼女の笑顔を前にしてしまうと、虎徹は決心が鈍りそうだった。それでも別れを告げなければならない。そのために来たのだから。
俺が浮かない顔をしているのに気付いたんだろう、うさぎちゃんは心配そうな顔をして俺の顔を覗き込んでくる。

「どうしたんですか?虎徹さん。元気ないみたい」

彼女は泣くだろうか、こんな可愛い子を泣かせたくはない。だけど、俺はうさぎちゃんの気持ちには応えられない。虎徹は覚悟を決めた。

「今日は、お別れを言いに来たんだ。俺はもう、ここには来ない」

彼女は目を見開いて、俺の顔を見た。俺が視線を反らさずに頷いてみせると彼女の翡翠色の瞳がみるみるうちに潤んでいく。

「どお、して……、好きなのに。虎徹さんのことが、すき……」

ああ、ついに言われてしまった。やはりもう彼女に会うことはできない。

「俺なんかやめとけ、こんなおじさんより、もっといい奴がいるって」

バニーとの関係と違い、うさぎちゃんとはこの店でだけの付き合いだ。今ならまだ引き返せると思う。これ以上深入りする前に関係を絶ち切ってしまおう。そうすれば彼女の傷も浅くて済むはずだ。

「……虎徹さんよりいい人なんていません。虎徹さんが、好きです」

どうしよう、何て言えば彼女に諦めて貰える?
バニーといい、うさぎちゃんといい、何で俺なんか好きになるんだろう。これが人生に何度かあるというモテ期ってやつなんだろうか。とにかく、俺はモテたためしなんてない。だからこういう時にどう断ったらいいのかよくわからない。
バニーにはひどいことを言ってしまった。せめてうさぎちゃんのことは傷付けたくはない。どうしたらいい。

「……うさぎちゃんと話すのは、楽しいよ。君は、……なんてゆうか、目茶苦茶魅力的な女の子だし、頭もいい」

だっ!褒めてどうする。

「じゃあ、どうして」
「その、好きな奴がいるんだ。……大事にしたい奴が」

俺は口から出まかせを言ったつもりだった。彼女を傷付けない最善策と思われる嘘を。けど、その時俺の脳裏に浮かんだのは友恵の顔じゃない――相棒の、バニーの顔だった。

「そう、ですか……。好きな人が」

呆然としていた虎徹は彼女の声で我に返った。彼女は取り乱したりはせず、静かに涙を拭っている。涙で化粧が流れ落ち、目の下が黒くなってしまっていても、うさぎちゃんは綺麗だった。

「……どんな人なんですか?虎徹さんが好きな人って」

彼女に問われて虎徹は戸惑う。何か言わなくてはならない、何も答えなければ嘘だとバレてしまう。

「どんなって……、しっかり者なんだけど、たまに抜けてたりして。ほっとけないんだ、つい構いたくなる」

虎徹はバーナビーのことを思い浮かべてそう答えた。うさぎちゃんは辛そうに顔を歪める。

「……もういいです、話さなくて。その人のことが、大切なんですね」
「ああ……、そうだ」

バニーのことは大事に思っている。誰よりも幸せになって欲しいと願ってる。その気持ちは嘘じゃない。

「本当に、もうここには来てくれないんですか?虎徹さんとお話しをするだけでいいんです」
「ダメだ、これ以上会わないほうがいい」

キッパリと縁を切るべきだと思う。中途半端に期待を持たせるのはよくないはずだ。今は辛くても、会わなければいつかは俺とのことなんて忘れるだろう。

「わかりました。でもせめて……最後に、キスしてくれませんか」

そう俺を見つめてきたうさぎちゃんの瞳は、泣いたせいで充血して赤く本当にうさぎみたいだ。
虎徹は彼女の髪に触れ、前髪をかきあげて額にキスをした。
“さようなら、うさぎちゃん。”

けど、それで終わりはしなかった。
彼女は虎徹の頭に腕を回し自ら唇を重ねてきた。驚いて肩を押し返そうとするも、逆にソファーへと押し倒されてしまう。華奢な身体のどこにそんな力があるというのか、うさぎちゃんは俺の上に馬乗りになりバスローブを脱ぎ捨てた。白い肌が眩しくて視線を反らせる。次の瞬間、彼女の手が虎徹のベルトへと触れた。慌てて制止させようと手を伸ばすと、逆に手首を捕まれて柔らかな胸の膨らみへと導かれる。

「……子供扱いしないで下さい。あんなキスじゃ、物足りない」

これは本当に、あの可愛いうさぎちゃんなんだろうか。
俺の上に跨がった彼女はキャミソールの肩紐をずらした。その下にブラジャーは身につけておらず、丸く柔らかそうな膨らみが片側だけ零れ落ちる。

「抱いてください、虎徹さん。もう最後だというのなら、そのくらい、いいでしょう?」

上体を前に倒したうさぎちゃんが俺の耳元に囁いた。ぺろりと耳を舐められて、身体の芯がゾワリと震える。
いくら俺がおじさんだと言ったって涸れているわけじゃない。友恵が亡くなってからは特定の恋人もいないし、風俗に行く気にもなれなくてすっかり自分の右手が恋人だ。けど最近はそんな気も起こらなくて暫く抜くこともしていなかった。なんて、どんな言い訳をしてもどうしようもないが、とにかく俺は勃起した。

「あ……」

うさぎちゃんが小さな声を上げる。最悪だ、気付かれてしまった。

「クソッ……」

俺は彼女を押し返した。バランスが崩れ二人揃ってソファーから転げ落ちる。床に仰向けに倒れた彼女の上に虎徹が馬乗りになり形勢は逆転した。

「可愛い子兎ちゃんかと思ったら、とんだメス兎だな。おじさんを誘惑しやがって」
「……猫被ってたんですよ。そのほうが虎徹さんの好みかと思って」

さっきまで泣いていたくせに、彼女はもう泣いてなんかいなかった。ピンク色の唇を三日月形にして笑っている。

「……そんなに抱いてほしいなら、抱いてやる」

俺は彼女に噛み付くようなキスをした。せいぜい酷く抱いて、止めてくれと言わせてやろう。
それで彼女が俺を嫌いになってくれるなら、好きだなんて泣かれるより憎まれるほうがずっとマシだ。



 
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