ンサムな彼女
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SIDE・B


バーナビーはとてもご機嫌だった。足取りが軽く、ついついスキップでもしたくなるのを抑えるのがなかなか困難なくらいには浮かれている。
昨夜、虎徹さんが店に来てくれた。会話は弾んで、彼もよく笑った。バスローブを着るようにと言われたのは、自分に魅力を感じないのかと少し悲しかったけれど、それでもすぐに自分に触れたがる男なんかよりずっといい。やはり虎徹さんは他の男たちなんかとは違う。
昨夜はだいぶ酔ってしまって、正直後半のほうはあまり記憶がない。けれど連絡先も交換できたし、それになにより……キスをした。
残念ながら虎徹からではなく、バーナビーから仕掛けたキスだったが拒絶はされなかった。バーナビーにとってはファーストキスだ。幼少の頃、家族と交わした以外では初めてのキス。
思い出すと頬が緩んでしまいそうになるのを必死に堪えるが、キーボードを打つタッチは軽快だ。時計を見てそろそろ虎徹さんが出勤してくる頃合いだな、と考えているとちょうど彼が姿を見せた。

「おはようございます」
「ふぁあ……、おはよう、バニー」

盛大なあくびをする虎徹にバーナビーは肩を竦めつつ席を立つ。本当は平常心を保つのに精一杯で正面から虎徹の顔を見ることもできず席を立ったのだが、このまま何もせずに席に戻るのも不自然だ。一寸思案しバーナビーはコーヒーを煎れることにした。自分のコーヒーを煎れるついでに虎徹の分も用意する。
先月虎徹に告白をして玉砕して以来、バーナビーは虎徹に対し好意を持っていることを示さないよう極力気を配っている。その努力の甲斐あってか最近やっと普通に接することができるようになってきた。
虎徹はバーナビーの告白を無かったことにしたいらしく、あのことについて何も触れてこない。今では以前と変わらぬ態度で接してきて「ちゃんとメシ食ってるか」なんてお節介も焼いてくる。変わったことといえば飲みに誘われなくなったくらいだ。もっともこの一カ月、バーナビーは仕事が早く終わった夜はすぐに退社してしまうので、声を掛ける隙もないのかもしれないが。
バーナビーとしても虎徹がコンビを解消したいだとか言い出すかと思ったが、そんな事態にはならず安堵している。できれば虎徹とは波風を立てず、せめてバディとしてうまくやっていきたいと願っている。
でもコーヒーを出すくらい、同僚としての行動の範囲内として許されるだろう。手が震えそうになるのを抑えながら、虎徹の机の上にコーヒーを置いた。

「どうせ遅くまで飲んでいたんでしょう。ボーッとして僕の足を引っ張らないでくださいよ」

”昨夜飲みすぎちゃいました?会いに来てくれるのは嬉しいけれど、無理しないでくださいね”うさぎの姿の僕ならばこう言うはずだ。

「お、サンキューな」
「いえ」

お礼を言われて、胸がドキリと高鳴った。一気に顔が熱くなり、慌てて僕は顔を背ける。
当然のことながら、虎徹さんは虎徹さんだ。昨夜の虎徹さんも今の虎徹さんもどちらも同じ虎徹さん。虎徹さんにとっては昨夜のうさぎの姿の僕と今目の前にいる僕は別人なんだろうが、実際はどちらも僕だ。
バーナビーとしての僕は一生懸命この恋心を封じ込めてきたのに、うさぎの姿の僕は好きだという気持ちを隠すことをしていない。バーナビーとうさぎ、二人の自分の間でバーナビーは揺れていた。
どうか、虎徹さんに気付かれていませんように。机の上に置かれた書類に目を通すふりをして、僕は虎徹さんがこれ以上話しかけてこないことを願った。



 
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