Catch me if you can.
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翌朝、男が目覚めると既に虎徹の姿はなかった。枕元には彼のために借りた隣の部屋のカードキーが置かれていたが、それだけだった。
自分は期待していたのかと、そう気付いて男は口元を歪ませた。連絡先くらい、教えてくれるかと思ったのに。



その後、何度か夜の街へと足を運んだが虎徹に再会することはできなかった。
虎徹と出会った店にも何度か訪れてはみたが、プライドの高い男は虎徹を探しているだなんて口が裂けても言い出すことはできない。
何度目かの来店の時、見兼ねたママに「あいつならもう来てないわよ」と言われ、男はようやく虎徹を探すことを諦めることができたのだった。夜の街へ出かけることもやめてしまった。
誰にも掴まえられないあの男を、あの夜一瞬でも掴まえたと感じたのは自分の錯覚だったんだろう。



だが、それから1年も経たずに男と虎徹は互いに思いもよらない場所で再会を果たすことになる。



「カブラギ、トラテツ、ね」
「コテツです、コテツ」

名前を間違えたのはわざとだった。目の前にいるこの男がコテツだということはイヤというほど知っている。
まさかこんな形で再会を果たすとは、思ってもみなかった。

「一応言っとくけど、これは全く予想外のことでね。昨日書類を見るまで君がワイルドタイガーだとは知らなかった」
「……はぁ」

内心の動揺を隠しながらロイズは虎徹へと視線を向ける。やはりどう見ても、タイプなんかじゃない。
なぜあの夜、あんなにこの男に夢中になってしまったのだろうか。……あの夜、淋しいと口にしたこの男は、今も一人でいるんだろうか。
ふと思ってしまい、しかしそんな思考はすぐに捨てることにした。
ここは会社で、自分は彼の上司なのだ。きちんと与えられた仕事をしてくれれば、彼のプライベートなんてどうでもいい。
ロイズがそんなドライな思考を持ち得たのは、今ロイズ自身は淋しくなんてないからだ。ロイズには今、心の拠り所となる相手がいる。
虎徹の状況は彼に関する報告書を読んでいるので知っている。妻に先立たれ、一人娘がいるが同居はしておらず一人暮らしだということ。
虎徹の身の上に同情はするが、それでもロイズは彼を苛めないではいられない。それほど、プライドを傷付けられた代償は大きいのだ。
皮肉たっぷりの笑みを浮かべて、ロイズは虎徹に言い放つ。

「嫌なら、辞めてもらっていいんだよ」



誰にも捕まらない、誰の手にも落ちない虎徹が、バーナビーの手に落ちるのはまだもう少し先のお話。







Fin.






 
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