Catch me if you can.
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「……参ったな」

ひとりごちて、無意識に男の喉がゴクリと鳴る。
男の目の前で尻を突き出しているこの相手は、好みのタイプからは程遠いはずだった。
自分はゲイではなく、どちらかといえばストレート寄りのバイなのだ。こんな筋肉質の、若くもない男になんて本来ならば眼中にない。
それでも誘いに乗ってしまったのは、あのバーでママから虎徹の話を聞かされて興味を持ったからだった。
虎徹はわりと来るもの拒まずで誘われれば誰とでも寝るが、同じ相手とは絶対に一度しか寝ない。理由を聞いたら、二度も寝たら情が移るから嫌らしい。
”一度きりの関係しか望まないなんて、ドライでアナタ好みじゃない?”
動機はその程度のことだった。
なのに今は煽られている。
男の喘ぎ声なんて気持ちが悪くて聞きたくないと思うこともある。でも目の前のこの男は違うのだ、あまり声を漏らしたりはしないが堪え忍ぶような吐息から妙に色気を感じて、もっと鳴かせてみたいと思う。

「く、あ……、あアッ!!」

一息に身体を貫かれて、虎徹からは悲鳴じみた声が上がった。圧迫感や苦しさを覚えたのも束の間のことで、ずっと求めていた物を与えられた身体はすぐに快感を貪り出す。
虎徹の意志とは無関係に腰は揺れ、男の物を締め上げていく。
男の方も、虎徹のことを味わうような抱き方はしなかった。両手で腰を掴み、最初から遠慮なく揺さ振って、虎徹を一気に高みへと追いつめていく。
肉のぶつかる音が響くたびに虎徹の喉からは声が漏れ、それに煽られ男のスピードも上がっていく。

「ふ、あっ、……あ、ア……」

虎徹の身体がぶるぶると震え出し、男は虎徹が達したことを知った。それでもなお止めずに腰を打ち付けようとすると、身体に力が入らないのか虎徹の身体がずるりとベッドから滑り落ちそうになり、男は行為を中断していったん虎徹の中から出ることにした。

「……ったく、手のかかる男だな…」

文句を言いながらも、男は虎徹の身体をベッドの上へと引き上げてやると自分も隣へと寝転がった。服が皴になりそうだが、まぁそのくらいは我慢しよう。
虎徹はといえば、胸を上下させてまだ荒い呼吸を繰り返している。クスリのせいだろうか、少々心配になり男は自分でも似合わないとわかりながら虎徹の髪を撫でた。
薄く目を開いた虎徹と視線が絡まり、気まずさに男の方から視線を反らす。

「……はは、悪ィ。途中だっただろ、アンタ」
「別にいいよ」

本心だった。先程まで男の中で渦巻いていた性欲は、驚くほどに落ち着いていた。

「なんだか眠くなった。少し眠ろうかな」
「えー、俺は?」
「好きにしたらいい、隣の部屋に行ってもいいし、帰ってもいいし」

男の言葉に虎徹は唇を尖らせて抗議した。

「冷てぇなァ」

それには構わず、男はクスリと笑みを零す。

「どうせ今夜限りの関係だ、優しくする必要なんてない。君だってそうだろう?」
「けど、そういうのって淋しいだろ。一夜限りだってさ、一夜限りだからこそ、甘ったるく過ごしたいって思わねぇの?」

なおも食い下がる虎徹に対し、男は冷ややかに答えた。

「思わないな」

それでも虎徹はめげずに会話を続けようとする。

「アンタ、奥さんもいるのにさ、なんで男漁りなんてしてんだよ」
「さぁ」
「淋しいからだろ、俺は、淋しい。だから人肌が恋しくなる」

虎徹は男の腕を引き、男の腕の上へと強引に頭を乗せた。いつもなら不快なはずのそんな行為が嫌ではなくて、嫌ではないことに戸惑いながらもそれを押し隠した。
腕に感じる虎徹の重みと体温が心地良い。

「……恋人はいないのか」
「いない、作りたいとも思ってない」

きっぱりとした虎徹の返答に男は笑い声を洩らす。

「でも淋しいんだろ?矛盾してるね」
「うるせ、アンタも奥さんいるなら大事にしろよ」
「大事にしてるよ、私なりにね」
「そーかよ、熟年離婚されないといいけどな」

そのままもう一度交わることもなく、他愛もない話をだらだらと続けた。虎徹の声は耳障りが良くて、男はいつの間にか眠りへと落ちてしまった。



 

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