ンサムな彼女
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SIDE・T


「アンタたち、どーせ今夜も飲みに行くんでしょ?ちょっと、アタシに付き合わない?」

バーナビーに告白されてから一カ月。
なかったことにしたいと望んでいる虎徹の意志を尊重してか、あれ以来バーナビーは何も言ってこない。虎徹は以前と変わらぬ態度で接し、バーナビーも告白したことなんて忘れたかのように接してくる。
ただ、たまに視線を感じる。あいつは無自覚なのかもしれないが、切ない目で俺を見つめてくるときがある。そんな時、俺は気付いてしまうのだ。あぁ、こいつはまだ俺のことが好きなんだって。
あれ以来、虎徹はアントニオと二人で飲みに行くことが増えた。一人でいるとごちゃごちゃ考えてしまうし、仕事が忙しければ気も晴れるはずなのに最近はすっかり平和で大した事件も起こらない。平和なのはいいことだ、いいことなのだが出動のない日々が続くとついつい酒の量が増える。ネイサンの言う通り、虎徹とアントニオは今日も二人で飲みに行くつもりでいた。
ネイサンの誘いは願ったり適ったりだった。連日のように飲みに出かけているし、二人とも給料日前で懐具合も淋しくなっている。ネイサンの誘いならばタダで酒が飲める。もっとも、タダほど高いものはない、という経験も一度ならずあるのだが。
以前にも虎徹たちはタダ酒が飲めると誘われてネイサンの経営する店に行ったことがあるのだが、前回の店はオカマバーだったのだ。自分よりも筋肉隆々のオカマに迫られてすっかりやけ酒を喰らってるうちに悪酔いしてしまい散々な目に遭った。

「今回の店は大丈夫よ、かっわいい女の子しかいないわ。しかも、ランジェリー姿の」

結局、虎徹とアントニオはネイサンの誘いに乗ることにした。もしも下着姿のオカマに迫られたら逃げればいい。タダ酒の魅力には抗えなかった。

「うわ、すっげ……」

店に入って驚いた、高そうな内装にも驚いたがなんとそこはランジェリー姿の女の子で溢れていたのだ。
あまりの光景に視線をどこに定めていいか戸惑いながらも、男の本能に抗えずつい露出された胸やお尻へと視線が向いてしまう。生身の女性の素肌をここまで目にするのは随分とご無沙汰で、虎徹は思わず喉を鳴らした。
ふと隣のアントニオを見ると顔を真っ赤にして下を向いてしまっている。そんなアントニオの姿を見て虎徹は苦笑を漏らし多少平静さを取り戻した。ガタイはいいが意外とウブな親友に、この店は刺激が強すぎるかもしれない。
ネイサンに連れられて三人は個室へと落ち着いた。虎徹やアントニオの隣にも下着姿の女性が付く。

「ね、素敵な店でしょ。言っておくけど、お触りは禁止だからね」

ネイサンの言葉を否定はできなかった、素敵すぎて逆に裏があるのではないかと心配になるくらい素敵な店だ。しかし勧められるままに酒を飲むうちに、そんな疑心暗鬼はどこかへ行ってしまい、女性たちが下着姿という異様な光景にも虎徹は慣れてきた。

「目の前に、こんな素敵な女の子がいるのに触れねぇの?」
「おい、虎徹…」
「タダで飲んでるくせに図々しいわよ。勿論、お触りが全くダメってことはないわ。女の子との交渉次第。公にそんなことできないもの」

そう言ってネイサンは奥にある大きな鏡を指し示した。

「押してごらんなさい」

ネイサンに言われるまま、半信半疑で鏡を押してみる。ただの鏡だと思っていたそれは仕掛け扉になっていて、押すと回転して開く仕組みになっていたのだ。鏡の奥に広がる部屋を見て虎徹は驚いた。

「はぁ、こりゃすげぇわ」

ネイサンから制止の声も掛からないので虎徹は興味津々でその部屋へと足を踏み入れる。
意外と広い空間の真ん中には天蓋付きのキングサイズのベッドが鎮座していた。部屋の隅には全面ガラス張りのバスルームも完備している。そして外に向けられた大きな窓からはシュテルンビルトの夜景が一望できた。
一通り探検を終えて元にいた部屋へと戻ると、いつの間にかネイサンはアントニオの隣の席へと移動している。女の子とネイサンに挟まれて、でかいはずの男はやたら小さくなっていた。やはり居心地が悪いのだろう、酒のピッチが少々早い。

「おい、あんまり飲みすぎるなよ?」

虎徹がアントニオに向かって苦笑混じりに形だけの注意を促したその時だった。遠慮がちなノックの音が部屋に響く。

「失礼します」

扉を開けて入ってきた女の子を見て、虎徹は思わずあんぐりと口を開けてしまった。
小さな顔に大きな胸、なのに腰回りは細く手足はすらりと細長い。真っ白な肌に傷やシミはひとつもなく、動かなければ精巧な人形のようだとすら思った。
彼女も他の女の子と同じように下着しか身に付けていない。それでも彼女からはまったくいやらしさを感じなかった。それは彼女がキャミソールにショーツというスタイルだったせいもあるかもしれないが、恐らくそれだけではない。

「かっわいいでしょー、ワタシのイチオシの新人ちゃんよ」

席を立ったネイサンが彼女の隣へと並ぶと、まるで美女と野獣だ。
彼女の翡翠色の瞳にまっすぐに射抜かれて、虎徹の胸は思わず高鳴った。

「初めまして」

ニコリと笑みを浮かべられ、虎徹とアントニオはだらしなく鼻の下を伸ばす。
どこに座ろうか迷う素振りを見せる彼女の肩に手を置き、ネイサンは彼女を虎徹の隣へと座らせた。

「なーに遠慮してるのよ、アナタのために連れて来てやったのよ?」

ネイサンの言葉に彼女は顔を伏せて頬を赤く染めた。……やべぇ、目茶苦茶かわいい、この子。事情は飲み込めないながら、隣に座った彼女の顔をついつい覗き見せずにはいられない。

「タイガー、この子、アンタのファンなんだって」
「ふぇっ!?」

虎徹からとんでもなく間抜けな声が出た。

「こーんなにかわいいのに、男の趣味悪いわよねぇ。残念だわ」

本当に、こんなにかわいい子が俺のファン?ドッキリか何かじゃないか、と疑いたくなったが女の子の顔は先程より真っ赤になっていて、これが演技だというのなら俺はもう騙されたって構わない。ついつい虎徹の頬も熱くなる。



 
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