ンサムな彼女
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SIDE・B


「えー、すごい。あのお店もジェームズさんが手掛けたんですか?」

ジェームズがバーナビーを指名してくるのはもう3度目だ。甘い声を出して、バーナビーは男の腕に自分の腕を絡ませ自分の胸の膨らみの脇に男の腕を触れさせた。それだけで男の顔はデレッとやに下がった情けない表情になる。
男を落とすのはなんて簡単なんだろう、簡単すぎて少々張り合いがないくらいだ。
バーナビーがこの店で働き始めて一か月。
最初の頃は慣れない環境に戸惑うことも多かったが、毎日出勤しているわけでもないのにたった一カ月でバーナビーはこの店のNO.2の座にまで登り詰めている。ネイサンの見る目は確かだった、ということだ。
これまで散々女性にキャアキャア言われ、それに応えて生きてきたバーナビーにとっては、ご機嫌を取ったり愛想を振る舞う相手が女から男に変わっただけで、今までしてきたこととそう大差はない。
……いや、大差はないどころか簡単すぎる。
まずはこの外見。ネクスト能力により女性の姿に変えてもらっただけで、顔の造作は元の自分と大して違わないのだが、身長167センチ、スリーサイズは上から順に99.9、55.5、88.8というプロポーション。これは操作されたプロポーションではなく、バーナビー自身の元々の体型に由来するらしい。
そこにプロのヘアメイクによりメイクが施された。

「メイクはあまり濃くないほうがいいわね、清純そうな感じを残してちょうだい」

外見に関してバーナビーは口を出さず、ネイサンやヘアメイクに全面的に任せることにした。
眼鏡は外しコンタクトレンズを装着する。ファンデーションくらいはTVの収録や雑誌の撮影のときなどに塗られたこともあるがシャドウが入り、アイラインを引かれ、付け睫毛を貼り、眉毛も整えられた。それだけでだいぶ顔の印象が変わる。さらにチークが入りリップにグロスを塗られ、鏡に映る僕の姿は……自分でいうのもなんだけど、かなり、かわいいんじゃないだろうか。
髪は元々の髪色に合わせたハーフウィッグでロングスタイルに。ロングにしたのは男は髪の長い女性が好きな方が多数派だと言われたのもあるが、虎徹さんの亡くなった奥さんはロングヘアだったらしいので、髪の長い方が彼の好みなのかもしれないと考えたからだった。
いつも身につけている指輪とペンダントは外したが、どうしても外したくなかったPDAは上から包帯を巻き、レースがふんだんにあしらわれたシュシュを身につけ誤魔化すことにする。
そして、、ヒーローなんてやっている割には傷一つない真っ白な素肌にランジェリーを身に付けた。実はヨーコの本職は某有名下着メーカーのデザイナーだそうで、この店の女の子たちが着用しているランジェリーはすべて彼女?のお手製だ。バーナビーはあまり露出をするスタイルではなく、ブラジャーとショーツを身に付けた上から同じ柄のキャミソールを着用するスタイルを提案されたのでそれに従っている。
それでも刺激的な格好であることにかわりはない。この外見で、少し甘い声を出して甘えれば落とせない男なんていないんじゃないだろうか?
ただ男の話を聴き、すごぉい、素敵、かっこいい、さすが!思い付く限りの褒め言葉で賛辞する。決して相手を否定する言葉は口にしない。規則を破り触れてこようとする相手にはほんの少しだけ触らせて、続きはまた今度、と告げて断るが次はない。
そういうことをしたいならば、そういうことを許している他の女性のところに行けばいい。バーナビーはスポンサーを求めているわけではないし、最初からそういう行為はしなくていいとネイサンとの間に話は付いている。
しばらくして、バーナビーとジェームズのいる個室に他の女の子がやってきた。交替ということだろう、他の客から指名が入ったのかもしれない。彼女はそっとバーナビーに耳打ちした。

「ご指名よ」

僕は頷き、席を立つ前に彼の太腿の上にそっと手を置く。

「ごめんなさい。残念だけど、呼ばれちゃったみたい」

途端に男は不機嫌そうな顔になる。

「えー、うさぎちゃんが居なくなるなら、俺ももう帰ろうかな」

僕は男の手を両手で掴み、そっと男の頬に口づけた。

「そんな意地悪言わないで。また後で来るから」

そうして僕は席を立った。後でこの席に戻ってくることはないだろう、帰るときに見送りくらいはするかもしれないけれど。
退室するときにちらりと振り返ると、ジェームズは彼女の胸の谷間に鼻の下を伸ばして楽しそうに会話を開始している。バーナビーは肩を竦め、静かに扉を閉めた。

フロントに立ち寄ると、ネイサン絡みのお客様だと告げられた。ネイサン自身も一緒だという。ということは奥の部屋へ行けばいい。ネイサンはこの店を接待に使うことも多く、バーナビーは何度かその席に呼ばれている。
部屋に向かう前にルージュとグロスを塗り直そうとレストルームに立ち寄ったその時、僕は嗅ぎ慣れたフレッグランスの香りを嗅いだ。

「……虎徹、さん?」

バーナビーが振り返った視線の先には見間違えようのない虎徹の背中がある。バーナビーがここを訪れる前、彼がここにいたのだろう。擦れ違いになったのだ。虎徹の姿を認識した途端、バーナビーの心臓がバクバクと鳴り出した。慌ててレストルームへ駆け込み鍵を掛けてその場にしゃがみ込む。
どうしようどうしよう!本当に虎徹さんが店に来てしまった!
ネイサンからはいつ虎徹を連れていくだとか具体的なことは何も聞いていない、ただそろそろ連れていくとは聞いていて心の準備はしておくようにとは言われていた。それがまさか今日だとは!
女として振る舞うことにはすっかり慣れてしまった。もう、見ず知らずの男を落とすのには自信がある。その手練手管はこの一ヶ月で自分の物にした。
けれど、虎徹さんを相手に僕は上手に演じることができるのだろうか。何しろ、初めて虎徹さんに会ったときから、僕はなぜか彼の前では猫を被ることができなかったのだ。



 
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