Chocolat
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部屋に一人残されたバーナビーは再び布団の中に潜った。虎徹のベッドには当然彼の体臭が染み付いていて、どうしたって昨夜の行為を思い出してしまう。
バーナビーの心配は杞憂に終わった。あんなに悩んでいたのが今となっては馬鹿みたいに思える。
虎徹との行為は心も身体も満たされるものだった。
ただ、局部を洗われるのだけはたまらなく恥ずかしかった。バーナビーは自分ですると言ったが、虎徹は自分がやると言って譲らずに結局バーナビーが折れたのだ。
しかもバーナビーが恥ずかしがれば恥ずかしがるほど虎徹は意地悪く嬉しそうに笑い、その上虎徹の指がバーナビーが感じる箇所を掠めて反応してしまうと、そこばかりを重点的に刺激しながら洗うので、バーナビーは洗われている間にも達してしまったりした。
……今度からは絶対に自分で下準備をしよう。バーナビーは硬く心に誓った。

「バニ〜、やっぱり宅急便だった!」

小包を抱え戻ってきた虎徹は、デレデレとした表情を隠そうともしない。それを見てバーナビーは荷物の贈り主とその中身が何なのかを一瞬にして察知した。愛娘の楓ちゃんからのバレンタインチョコに違いない。
ベッドから起き上がり手探りで枕元の眼鏡を見付けると、ロフトの階段をゆっくりと降りた。ソファーに腰掛け包みを開けている虎徹さんに近付く。

「なァ、お前の分もあるぞ」

包みの中には綺麗にラッピングされた箱が二つあった。一つは緑色で一つは赤色。僕らのヒーローカラーだ。
虎徹さんは赤い箱を僕へと差し出した。その顔が少しふて腐れていて、僕は思わず笑ってしまう。

「……妬いてるんですか?」
「うるせ、こういうのは中身が大事だろーが、中身が」

バーナビー宛の箱の方が虎徹宛の物より大きかったのだ。
ラッピングを開けてみると、箱の上にカードが載っていた。カードに書かれた文字を見て、バーナビーが笑ったのを見て虎徹も自分宛のカードを開いてみた。
書かれていたのはたった一言。

『バーナビーさんの足を引っ張らないように』

ガクリとうなだれた虎徹に、バーナビーが心配になり何と書かれていたのか尋ねると、虎徹は黙ってカードを差し出した。それを見てバーナビーはまた笑う。

「……お前のには何て書いてあったんだよ」
「僕ですか?」

バーナビーも黙って虎徹にカードを差し出した。カードにはこう書かれている。

『これからもお父さんをよろしくお願いします』

「……どういう意味ですかね?」
「かえで……」

ガクリと項垂れた虎徹に構わず、バーナビーは箱を開けた。箱の中には手作りらしく少しだけ不格好なトリュフが並んでいた。

「虎徹さん」
「んー、なんだよ……」

折角、愛娘から念願の手作りチョコをもらったというのに元気のない虎徹の口の中に、バーナビーはチョコレートをひとつ押し込んだ。
口の中に入れられた塊を思わず噛み砕くと、口の中に甘ったるいチョコレートの味が広がる。

「楓ちゃんの手作りチョコですよ、よかったじゃないですか、ちゃんと貰えて」
「……だっ!勿体ない…!ゆっくり食べようと思ったのに」
「僕のもらった分だからいいでしょう、あなたの分はゆっくり食べれば」
「お前も大事に食べろよ、楓の手作りだぞ?」
「言われなくても食べますよ」

バーナビーもチョコレートを一つ口へ運んだ。甘い甘いチョコレートの味が口の中で広がる。

「……あまい…」
「そりゃ甘いだろ、チョコだし」
「でもおいしいです」

市販のチョコレートのほうが味はおいしいのかもしれない。けれど手作りの物には市販のものと違い温かさがある。何より、楓ちゃんが僕の分も用意してくれたことが嬉しかった。

「なぁ、楓に電話していいか?」
「ちょ、ちょっと待ってください」

電話というのはテレビ電話なので、こちらの姿もうつってしまう。寝起きの姿を楓ちゃんにはあまり見せたくなかった。

「んな、気にするなよ。寝起きなら前も見られてるだろ」
「そうですけど、嫌なものは嫌なんです」

以前虎徹の部屋に泊まった時に、寝起きの姿はたしかに見られている。しかしあの時は自分は女の姿だったし、正直それどころではなかったのだ。
好きな人の娘の前で、かっこ悪い姿は見せたくはない。なにしろ、楓は自分のファンなのだから幻滅させたくはない。

「顔を洗って支度してきますから、5分だけ待ってください」

そう言い残してバーナビーはバスルームへと消えていった。バーナビーの背中を見送って、虎徹はバーナビー宛のカードへ視線を落とす。

「……お父さんをよろしくって、……ったく」

楓は俺とバーナビーとのことを、何か気付いているんだろうか。
いつか楓にバーナビーとのことを打ち明ける日が来るんだろうか。
楓がどんな反応を示すのか、正直俺はそれが一番怖い。
でも、今はまだそのときじゃない、だって楓はまだ小学生だ。そういう話をするのは楓がもう少し大きくなってからでいい。……いや、隠してたことがばれたら、それはそれで怒るだろうなァ……。
考えがまとまらなくなって、俺は考えることをやめた。
そして、電話を掴むと実家の番号のダイヤルを回した。







Fin.


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