Chocolat
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15









気が付くと、僕は子供の頃に両親と住んでいた屋敷の中にいた。
僕は、小さな子供の姿になっている。
おかあさんは美人で優しくて、おとうさんはかっこよくて面白い。サマンサおばさんは料理上手でやっぱり優しくて、大好きな三人に囲まれて僕はにこにこ笑っている。

けれど、突然周りが炎に包まれた。
真っ赤に燃え盛る炎を前に、恐怖に震える僕はおかあさんにしがみつこうと腕を伸ばす。
でも、しがみつこうとしたおかあさんも炎に包まれて燃え上がり、みるみるうちに真っ黒な塊になって崩れてしまった。おとうさんも、サマンサおばさんも、家も真っ赤に燃えていた。
僕は悲鳴を上げたように思う。

炎は全てを焼き尽くし、やがて辺りは完全なる闇に包まれる。
居心地のいい温かな家も、大好きな人たちも、全てを失ってしまった僕は、漆黒の闇の中で絶望していた。
このまま僕も闇に飲まれて消えてしまおうかと思ったその時、遠くに小さな光が見えた。小さいけれど、力強い光だ。僕はその光に吸い寄せられるよう前に進んだ。
キラキラと輝いていたその光は近付いていくと眩しすぎて、光の向こうに何があるのかはわからない。けれど温かな光で、僕はそちら側へ行きたくて夢中で手を伸ばした。
僕の手は、光の向こう側から誰かに掴まれた。浅黒く力強いその手にぐっと握り返されて腕を引かれる。


『もう大丈夫だ、バニー』







目覚めると、夢の中で僕の手を引いてくれたその相手はすぅすぅと穏やかな寝息を立てて僕の隣で眠っていた。
隣というか、僕は彼の腕を枕にして眠っていたらしい。重いだろうと身体を起こそうとすると両腕で抱きしめられてしまった。

「……虎徹さん?」

起こしてしまったのかと声を掛けてみたが、眠ったままの無意識の行動らしい。背中から与えられる彼の温もりも心地好かったので、僕は起き上がることを諦めた。

……虎徹さんは僕の光だ。
虎徹さんと出会わなければ、今の僕はなかっただろう。
両親の復讐に取り付かれ、そのためにずっとがむしゃらに生きてきた。復讐のためにヒーローにだってなった。
虎徹さんに出会わなくても、もしかしたらマーベリックが黒幕だと気付いて復讐を遂げることができたのかもしれない。でも復讐を遂げたその後、僕はどうなっていたんだろうか。
虎徹さんに出会って、僕は随分と変わった。こんなに何の遠慮もなく接してくれる人に、僕は初めて出会った。最初の頃は鬱陶しくさえ思っていたのに、いつの間にか僕にとって虎徹さんは必要不可欠な存在になっていた。
僕が親の敵だと信じていたジェイクを殺さずに済んだのも、マーべリックに記憶を操作された僕が正気を取り戻せたのも、育ての親のマーベリックが両親を殺した犯人だと知った時に絶望せずに済んだのも、虎徹さんが居てくれたからだ。
虎徹さんが僕の光であってくれたように僕も誰かの光になれたらいい。
いや、彼と一緒に、仲間たちと一緒に、誰かの光になれたらいい。
そのために僕は再びヒーローとして舞い戻ったのだ。



バーナビーが虎徹の腕の中で再び眠りに落ちそうになった頃、来客を告げるチャイムの音が部屋に鳴り響いた。
一気に眠気が吹き飛んだ。なにせ二人とも服を着ていない。

「……むぁ?」
「起きて下さい、誰か来たみたいなんですけど」

慌てるバーナビーをよそに、虎徹はのんびりとしたものだった。

「あー、そういや宅急便かも。昨日不在票入ってて再配達頼んでたんだった」

虎徹の言葉にバーナビーもほっと胸を撫で下ろす。誰かが訪ねてきたんじゃなくてよかった、さすがに二人この状態でごまかしきれる自信がない。
ベッドから起き上がると下着とズボンだけ引っ掛けて玄関へ向かおうとする虎徹に、バーナビーは脱ぎ捨てられていたシャツを投げ付けた。

「ちょっと、上も何か着て下さいっ!」

虎徹が投げつけられたシャツを拾い上げ、バーナビーに視線を向けるとその頬が僅かに赤い。
バーナビーの赤面の意味に気付いた虎徹が意地悪くニヤリと笑う。

「激しかったなァ、昨夜のバニーちゃん」

虎徹の肩にはくっきりとバーナビーに噛み付かれた歯型が残っている。
他の物が飛んでくる前に虎徹は部屋から逃げ出した。



 
[戻る]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -