Chocolat
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身体に感じるバーナビーの重みは心地がいいし、バーナビーからはいつもいい匂いがする。
バーナビーが選ぶシャンプーやボディソープの香りは虎徹の好みだし、纏う香水も、ヒーロースーツを脱いだ後やトレーニング後のシャワーを浴びる前の汗の匂いでさえ虎徹の好みだ。
整った綺麗な顔も、翡翠色をした強い意志を持った瞳も、プライドの高いところや、クールに見えて意外と激昂するところ、実は淋しがりでスキンシップに弱いところ。バーナビーの好きなところを挙げたらキリがない。
俺はバーナビーのことが愛おしくてたまらなくて、だからバーナビーが男だなんてことは些細なことだ。
……頭では、そう思う。
けど、現実はそうもいかなくて、もし勃たなかったら?もしバーナビーのことを気持ちよくさせてやれなかったら?もしセックスがうまくいかなくて、関係が気まずくなったら?
そんなネガティブな思考に囚われてしまい、バーナビーに向かって伸ばそうとした手を引っ込めてしまう。
バーナビーは、手を伸ばせば届く距離にいるのに。

「……虎徹さん、くるし……」

バーナビーの声に、虎徹は力いっぱいバーナビーを抱き締めていたことに気が付いた。
腕の力を緩め、バーナビーの肩口に顔を埋め大好きな匂いを胸一杯に吸い込む。

「欲情するに決まってんだろ……」

ただ、どう触れていいのかわからない。

「……無理しなくて、いいんですよ」

無理なんてしてないと、即座に言い返そうとしたがバーナビーの声が震えているのに虎徹は気付いた。

「僕は今のままでも十分幸せですし、身体の関係がすべてだなんて思ってな……」

バーナビーが最後まで口にする前に、虎徹は自分の唇でバーナビーの唇を塞いでしまった。
唇を押し付けて、閉ざされたままのバーナビーの唇を舌先で撫で、薄く開かれた唇の隙間から舌を押し込む。バーナビーの舌を追いかけて追いつめて、絡めて引きずり出し甘噛みすると抱き締めている身体が小さく震えた。
そのわずかな反応に気を良くして、虎徹はさらにバーナビーを追いつめる。虎徹が唇を離す頃にはお互いすっかり息が上がっていた。

「……俺は、我慢できそうにない。欲求不満でどうにかなりそうだ」

けれど、バーナビーは虎徹の言葉が素直には信じられない。

「虎徹さん……、僕に気を遣わなくていいんですよ」

情熱的なキスをされたことは嬉しかった。でも優しい虎徹さんのことだから、自分のことを気遣ってしてくれたのかもしれない。
バーナビーの晴れない表情を見て、虎徹は覚悟を決めた。

「……わかった」

虎徹は静かにバーナビーから離れた。
ソファーから立ち上がった虎徹をバーナビーは引き止めなかった。
……僕たちの関係は終わってしまったのかもしれない。
僕が欲を出したりしなければ、今までの穏やかな日々で満足していたらこんなことには……。
顔を伏せ、涙をこらえていたバーナビーの前に影ができた。

「あのさ、バニー。確認しておきたいことがあるんだけど」
「……?」

もう終わった、と思っていたがどうやら違ったらしい。
バーナビーに声を掛けてきた虎徹の様子は別れ話を切り出すような態度ではない。
そして小脇に先程食事の前にバーナビーが見つけた箱を抱えていた。

「……なんですか?」

虎徹はガシガシと後頭部を掻いた。困ったときに出る虎徹の癖だ。
バーナビーが返事を急かさずに待っていると、虎徹はバーナビーの隣に腰を下ろしてようやく口を開いた。

「……バニーちゃん、男としたことないって言ってただろ?」

虎徹さんの質問の意図がよくわからなかったが、とりあえず頷いた。

「…………俺もそれなりに勉強したんだけど」

ようやく虎徹さんの言いたいことが何となくだがわかってきた。しかし今聞き捨てならないことを言われたような。

「……どうやって勉強したんです?」

まさか実践で、なんてことはないだろうが気になって思わず尋ねた。

「それは、その……、ネイサンにそういうサイトとか教えてもらって」

虎徹の答えにバーナビーは安堵した。そして、虎徹が持ってきた箱の中身についても何となくだが察しがついた。

「……その箱、開けてもいいですか?」

箱の中身はほぼバーナビーの予想通りだった。
洗浄するための道具にローション、それに比較的細めなディルド。
箱に開けられた形跡はなく、虎徹も実際に中身を見たのは初めてらしい。ディルドを手に取り匂いを嗅ぐと顔をしかめた。

「ゴムくせぇ」

バーナビーも苦笑を漏らす。虎徹の手からディルドを奪うと虎徹の顔へと近付けた。嫌そうに顔をしかめる虎徹に思わず笑みが零れる。



 
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