2月22日
※R-18
※にゃんこの日ということで、にゃん徹さんのお話
※兎虎
※副題は『虎徹さんが〇〇するネクストに出会ったー』
その日、僕はいつものように始業時間30分前に出勤した。
ヒーロー事業部に置かれた自分の席で一日のスケジュールを確認し、メールの確認も終えると愛読しているニュースサイトを開いて目を通す。
始業時間5分前、いつもならそろそろ虎徹さんが出勤してくる時間だ。
僕は出入り口の扉を気にかけつつ、自分宛てに届いたファンレターに目を通していた。
しかし、始業時間になっても一向に虎徹さんは現れない。
不審に思い、経理のおばさんに視線を向けると目が合ったので尋ねてみた。
「あの、タイガーさんは」
「タイガーなら休むって連絡があったわ」
丈夫だけが取り柄の虎徹さんが休むなんて…!
僕の驚きが表情に出ていたのだろう。
「あのタイガーが休むなんてね、声も熱っぽかったし」
彼女の言葉は僕の不安をさらに煽った。
虎徹さんなら多少具合が悪くても無理して出勤してきて、逆に僕たちに休めと叱られることになりそうなのに、そんな虎徹さんが自主的に休んだのだ。
今日の午前中は取材など特に予定は入っておらず、虎徹さんが出勤したら一緒にトレーニングルームへ行こうかなどと考えていた。
再度自分のスケジュールを確認してみたが、やはり午前中は何もない。午後にはタイガー&バーナビーとしての取材が一件入っているが、虎徹さんが不在ならばこれは延期になるだろう。
僕は即PCの電源を落とし席を立った。
「すみません、僕も今日は帰ります。タイガーさんが心配ですので、様子を見てきます」
「……わかったわ」
経理のおばさんは仕事の手を一瞬止めて顔も上げずに返事をした。
彼女はわかっているのだ、鏑木虎徹のことになるとバーナビーに何を言っても無駄だということを。
オフィスを出て、まずは虎徹に電話をかけた。しかし呼び出し音は鳴っているが、一向に電話に出てくれない。
眠っているのかと、念のためメールを送信してみるとメールの返信はすぐに来た。
返信は”大丈夫だ、心配するな”とだけ。
「……起きてるんじゃないか」
少々の苛立ちを抑えながら再度電話を鳴らすとやはり出てはくれない。
それでも繰り返し諦めずコールすると、なんと呼び出し音も鳴らなくなった。どうやら電源を切られたらしい。
「何なんだ、心配もさせてくれないんですか、あなたは…」
虎徹さんの大丈夫はあてにならない。
ゆらりとバーナビーの身体が発光する。
僕は虎徹さんのアパートメントへと飛んだ。
アパートメントに着いた僕は、虎徹さんの部屋のチャイムを鳴らした。
しかし予想通りだが反応がない。
それでも僕は何度もチャイムを押し続けた。ここにいることはわかっている。
繰り返しチャイムを鳴らしていると、ついに根負けした虎徹さんがドア越しに声を掛けてきた。
「……近所迷惑だろ」
「入れてください」
ドア越しでも虎徹さんが溜息を吐いたのがわかった。
「おまえだけは絶対だめ」
「どうして僕はだめなんです?何を隠してるんですか、虎徹さん」
明らかに”しまった”という気配。
僕は言葉を続けた。
「もうじきハンドレッドパワーが切れてしまいますので、開けてくれないのなら今すぐドアを蹴破ります」
脅しではなかった。僕は本気でそうするつもりだった。
「だっ……!わ、わかった、わかったからちょっと待って」
「待てません」
僕がドアを蹴ろうと足を引くと、ドアはようやく開かれた。
「……ったく、大丈夫だっつったろ……」
「あなたの大丈夫はあてにならないんですよ」
虎徹さんは頭から毛布を被り、前をぎゅっと握っている。顔だけが出ている状態だった。
目元は熱のせいか赤く染まり、呼吸も少し荒く苦しそうだ。
「……寒いんですか?熱は」
額に触れようと僕が足を一歩前へ踏み出すと、虎徹さんは慌てて身体を引いた。
「あ、あんま近付くなっ!」
僕に風邪がうつることを心配してくれているんだろうか。
「大丈夫です、僕は意外と丈夫なので」
僕は滅多に風邪を引かない。それに虎徹さんからもらった風邪ならばうつされても本望だ。
逃げる虎徹さんを壁まで追いつめ、逃げ場の無くなった彼の顔に触れようと手を伸ばすと、その額に触れる前に手を払われた。
「さわんな……っ!」
激しい拒絶の仕方だった。
虎徹さんに払われた手の甲に視線を落としていると、彼はロフトの上へと駆け上がる。
僕が後を追うと、虎徹さんの泣きそうな声がロフトの上から降ってきた。
「……たのむ、バニー。ちゃんと、話すから」
虎徹さんは、僕が階段を上らないという条件で話をしてくれた。
虎徹さんは甘い、僕が”わかりました”と返事をしたけれど、階段を上らないなんて保障はどこにもないのに。
彼の話を要約すると、つまりはこういうことだ。
昨夜、虎徹さんが帰宅するとアパートメントの前に蹲っている人影があった。虎徹さんは何の疑いもなく”具合が悪いのか?”と声を掛けた。
すると、その男にいきなり頭を掴まれて何かよくわからない言葉を叫ばれたのだという。男の目は青く光り、その男が何らかのネクストだと気付いた時にはもう手遅れだった。
虎徹さんは何らかの能力を受け、具合が悪くなっている、らしい。
「つまり、虎徹さんの具合が悪いのは風邪ではなくて、そのネクストのせいなんですよね?」
「……うん……」
「じゃあ、僕が近付いてもうつりませんね?」
僕がロフトの階段を上ろうとすると上から枕が飛んできた。
「お、おまえ、こっちには来ないって言ったろ?」
「忘れました」
それでも僕が上ろうとすると、虎徹さんは完全な泣き声でこう言った。
「本当に、許してくれよ、バニー……」
僕が近付くことが泣くほどに嫌なんだろうか?さすがの僕も少々傷ついた。
虎徹さんのことは心配だが、あまり苛めて嫌われたくはない。
僕は階段を上ることは止めて、もう少し話しをすることにした。
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