Chocolat
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バーナビーが促すと虎徹は少しためらいがちに話を再開した。

「……実はさ、お前とブルーローズが付き合ってるっじゃないかって勘違いしてて」

バーナビーにとっては寝耳に水だ。

「ええっ?どうして……」

なぜ虎徹がそんなふうに思ったのか全く心当たりがない。しかしすぐに理由はわかった。

「たまたま、おまえのマンションからブルーローズが出てくるの見ちゃって、それで」

あの日のことか、とバーナビーはすぐに思い当った。

「……あれはブルーローズだけじゃありませんよ、ドラゴンキッドたちも一緒でしたし」
「うん、それは聞いた。……けど、なんでお前の部屋に行ったのかって聞いたら、お前に直接聞けって言われて」

バーナビーは虎徹に向かって微笑み、ソファーから立ち上がった。
部屋を訪れるときに一緒に持参した紙袋から、箱を取り出して虎徹の前へと差し出す。
その箱は包装紙で包まれてリボンも掛けられていたけれど、包装紙は角の辺りがぐしゃっとなっているし、リボンの結び目も緩い。
それがどこかの店で買ってラッピングされたものではないことは一目瞭然だった。

「これ……」
「……開けてみてもらえますか?」
「うん」

ラッピングを丁寧に解くと、中から白い箱が現れた。箱をテーブルに置きそっと開けると、中に入っていたのはチョコレート色の円形のケーキだ。

「……これ、バニーちゃんが作ったの?」

虎徹は目を丸くして驚きの表情を隠そうともしない。バーナビーははにかんで笑った。

「はい。実は、なかなかうまくできなくて……ブルーローズたちに作り方を教えてもらったんです。おかげさまで何とか一人でも作れるようになりましたけど、お菓子作りって難しいですね」
「……バニーちゃんでも、苦手なことってあるんだな」

バーナビーお手製だというチョコレートブラウニーは綺麗な円形だが、型からうまく外れなかったのか角が少し欠けている。
ラッピングもお世辞にもうまくはなかったけれど、そういった全てが愛おしくて、虎徹はバーナビーを抱きしめずにはいられなかった。

「ちょ……、虎徹さん!?」

急に立ち上がった虎徹に思い切り抱きしめられた。
ぎゅうぎゅう腕に力を込めて抱きしめて、バーナビーの頬にほお擦りをしてくる虎徹を、バーナビーは緩く押し返す。

「ちょっと…、いきなりどうしたんですか」
「だーって、バニーちゃんが俺のためにお菓子作りなんて似合わねぇことしてくれちゃって!」
「……すみませんね、似合わなくて」
「すっげー嬉しい!どうしよう、すっげー嬉しいのよ、俺。ありがとう、バニー」

抵抗は諦め、きつく抱き締められた虎徹の腕の中でバーナビーは穏やかに笑った。
喜んでくれるだろうとは思っていたが、ここまで喜んでもらえるとは思っていなかった。
お菓子作りは大変だったけれど、こんなに喜んでもらえるなら挑戦してみてよかったと、心から思った。

「……喜んでくれて嬉しいです」
「喜ぶよ、そりゃ!」

ようやく虎徹の腕から解放され、バーナビーは紙袋からブランデーを取り出して虎徹へと手渡した。

「虎徹さんはこっちのほうが喜ぶかも、と思ったんですけど」

手渡されたボトルはすでに開封済みだった。もしや、と思いつつバーナビーに確認せずにはいられない。

「あの、さ、バニーちゃん。これ、ケーキに使ったの?」
「ええ、頂き物な上にケーキに使った残りで悪いんですけど、僕あまりブランデーは飲まないので……」
「これ、さ、値段わかんねーけど、きっとすっげー高いよ?」
「でしょうね、そのラベルが正しいのなら百年程度前のものですからね」

ボトルを胸に抱えつつ、虎徹は頭も抱えた。
千ドルか一万ドルか、正確な値段はわからないが、少なくともケーキに使うような値段のものでは決してない。

「だっ!これだからセレブな奴は!」
「いいじゃないですか、一緒に飲みましょうよ、虎徹さん」

勝手知ったる虎徹の部屋だ、バーナビーはブランデーグラスを用意してテーブルの上へと置く。

「ロックでいいでしょう?」
「……当り前だ」

こんなにいい酒を割るだなんて勿体ない。
並んでソファーに腰かけ、ブランデーの注がれたグラスを合わせた。

「乾杯」
「……何に、ですか?」
「んーっと……、俺たちの未来?」
「なんですか、それ」

あまりにも安直なその答えにバーナビーが笑うと虎徹は頬を膨らませる。

「いいんだよ、なんでも。とにかく、これからもよろしくな、バニー」
「……はい」





 
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