Chocolat
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虎徹がチャーハンを作り終えたタイミングを見計らったかのように、玄関のチャイムが鳴った。
あたふたと玄関に向かおうとして、今更ながら自分の服装が気になった。
虎徹が身につけているのは、いつものモスグリーンのシャツに黒のパンツだ。もしかしたらあのバーナビーのことだ、スーツでビシッと決めてくるのかもしれない。
もっとちゃんとした格好でいればよかったと後悔したが、今更着替えている時間はなかった。
虎徹はそのままの格好で机の上の花束を引っ掴み玄関へと向かった。

「すみません、遅くなって……ぅわっ!」

薔薇の花束を片手に虎徹は玄関先でバーナビーに抱きついた。
予想に反してバーナビーはいつものライダース姿のままだった。

「おまえのことだから、スーツかなんかでかっこよくキメてくんのかと思ってたよ」
「……そうするつもりだったんですけど、少しでも早く虎徹さんに会いたくて……」

玄関の鍵を閉めて、どちらからともなくキスをした。
外気で冷えたバーナビーの唇に唇で熱を与えて、鼻先をくっつけ合って微笑み合う。

「外寒かったろ。散らかってるけど、上がって」
「……お邪魔します」

そういえばバーナビーを部屋に上げるのは少しばかり久しぶりだ。
俺はてっきりブルーローズと付き合っているんじゃないかと疑ってバーナビーのことをここ数日避けてたけど、それは俺の勘違いだったわけで。
その前はバーナビーのほうが俺を避けていたような気がしたんだけど、あれは本当に忙しかったからなんだろうか。
セックスレスが原因で愛想を尽かされたかと考えて、そう、俺はそう考えてアダルトグッズを買ったんだけど……。

「あれ、虎徹さん。この包みはなんですか?」
「あーッ……!おま、それどこにあった?」
「テーブルの下にありましたけど?」

ソファーに腰を落ち着けたバーナビーが手にしているのは俺が今まさに行方を考えていた、その箱だ。
通販で届いて、でももう必要もないかと開封もせず適当にその辺に置いてそのままにして今の今まで存在を忘れていた、箱だ。

「あ、いや、それはね……、その……置いといて……」

中身がアダルトグッズだとはさすがに言いづらくて、俺は適当に誤魔化すことにした。

「ほら、とりあえず飯にしようぜ、な?」

テーブルの上を適当に片付け、出来上がったばかりのチャーハンとレンジで温め直したかに玉を運ぶ。
しかし問題の箱は、まだバーナビーの膝の上だ。

「……見られたら、困るような物なんですか?」

明らかに不審がっているバーナビーに虎徹は苦笑を漏らすしかなかった。

「その……見られても困らねぇけど、できれば食事の後がいいかなあって……」
「?……わかりました」

とりあえず箱の中身について詮索することは止めてくれたようだ。
素面の時にその箱の中身について言及されたら辛い。虎徹はほっと胸を撫で下ろした。

「まずはビールでいいか?」
「ええ」

バレンタインの夜のディナーが、チャーハンにビールだなんて色気がないが、バーナビーは気にしていないようだった。
こうしてゆっくりとバーナビーと一緒に夕飯を共にするのは、随分と久しぶりな気がした。
しかしバーナビーに確認すると、前回一緒に食事をしたのはほんの一週間ほど前のことだという。
その頃の俺は、バーナビーとブルーローズが付き合っていると勝手に勘違いをして落ち込んでいたと思う。
話題に出していいか躊躇ったが、俺はブルーローズのことを話すことにした。

「……あのさ、バーナビー」
「なんです?」
「今日、ブルーローズに好きだって言われた」
「……そう、ですか」

もっと反応があるかと思ったら、バーナビーは意外と冷静だった。

「あれ?驚かねぇの?」
「まぁ。それで、なんて返事したんです?」

ブルーローズ本人から、虎徹に告白すると聞かされていたので驚きはしなかったバーナビーだが、虎徹がどう返事をしたのかは気になった。

「あぁ……、好きな奴がいるって答えた。つーかお前、いつブルーローズに、その、俺たちのこと、話したんだよ…」

”俺たちのこと”という部分だけ虎徹の声のボリュームが下がった。虎徹の顔を見ればやや赤くなっている。ビールで赤くなったわけではなさそうだ。
バーナビーの表情に自然と笑みが浮かんだ。

「……すみません、虎徹さんの了承も得ずに話してしまって」
「いや、いいんだけどよ……」

それきり、虎徹は黙ってしまった。しかしまだ何か言いたいことがあるようで虎徹の視線は落ち着かなそうに泳いでいる。

「……虎徹さん、まだ何か話したいことがあるんじゃないんですか?」



 
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