Chocolat
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僕とドラゴンキッドの元にブルーローズも近付いてきた。
近寄って、下から見上げてきた彼女に僕は少し困惑したが、ブルーローズは心配顔でこう言った。

「バーナビー、どうしたの?目の下、すっごいクマできてる」
「あ……」

何を言われるのかと身構えていたが、ブルーローズは僕のことを心配して声を掛けてくれただけだった。
指摘された目の下を指先でなぞりつつ、僕は苦笑を洩らした。

「最近、少し寝るのが遅くて……」

虎徹さんのためにチョコレートを作ろうとしていて寝不足だとは言いにくい。
しかし僕の腕にしがみついていたドラゴンキッドが急にこんなことを言い出した。

「そういえばバーナビー、最近おいしそうな匂いがするよね?チョコレート?」

咄嗟に否定の言葉も浮かばず、僕は黙ってしまった。
そんなに匂っているのだろうか。
でもそういえばここ数日、寝不足を理由に朝のシャワーをさぼりがちで今朝も浴びていない。
僕はもう鼻が慣れてしまって気にならないが、部屋の中にはチョコレートの甘い匂いが充満しているし、着る物にももしかしたら匂いが移っているのかもしれない。
僕が否定できずにいると、何かを察したらしいブルーローズと目が合った。
どうしようか、ここはもう開き直って認めてしまおう。

「ええ、もうじきバレンタインなのでチョコレート作りに挑戦しているんですけど……なかなか難しくて」

誰にあげるためにかは敢えて言わなかった。嘘はついていない。

「ええっ!バーナビーが?タイガーにあげるの?」

しかし無邪気なドラゴンキッドにそう尋ねられて、僕は逃げ場を失ってしまった。
ドラゴンキッドは他意があって尋ねたわけじゃないと思う。
ただ純粋に、バレンタインは大切な人に贈り物をする日だと知っていて、僕が一番仲のいい相手が虎徹さんだと思っているだけなんだろう。
ブルーローズのことは気になったが、僕は正直に答えることにした。

「……はい、虎徹さんにあげようと思ってます」

ブルーローズの反応が気になって、僕はまっすぐにブルーローズの瞳を見た。
先に視線を外したのはブルーローズだ。
彼女の心境は、正直なところよくわからない。
好きな人がいて、彼のことを自分と同じように好きな僕という相手がいる。
自分に置き換えてみるとどうだろう。
僕は虎徹さんのことが好きで、彼女も虎徹さんのことが好きだ。
そして彼女は虎徹さんのためにチョコレートを作ろうとしている。
……そんな話を聞かされても、僕なら困る。彼女に、虎徹さんにチョコレートを渡してなんて欲しくない。
しかし、彼女はこう言った。

「……で、なんでわざわざチョコレートなんて手作りしてるの?」





僕たちはトレーニングそっちのけで話をした。
虎徹さんが去年、楓ちゃんに手作りのチョコレートをもらって嬉しかったと言っていたこと。それを聞いて作ってみようと思ったこと。
けれど何度挑戦してもうまくいかなくて、そのせいで寝不足が続いてクマなんかができるハメになったこと。

「チョコレート作りで寝不足?バッカみたい!」

ブルーローズにはそう言われてしまったけれど、ドラゴンキッドが”ぼくも作ってみたい”なんて言い出したのをきっかけに、なぜだか皆で僕の部屋で一緒にチョコレートを作る、ということになってしまった。

ドラゴンキッドは保護者である女性に連絡を入れると席を立ち、僕とブルーローズの二人がその場に残った。
沈黙を先に破ったのはブルーローズだ。

「……そうじゃないかなって、思ってたんだ。バーナビー、……正直に話して」
「はい」
「タイガーのこと、好きなんだよね……」
「……はい」

彼女にもいつかは話すべきだと思っていた。
いや、彼女以外のヒーロー達にも話すべきだと思っている。彼らは大切な、仲間なのだから。
それでも彼女に話すのは、正直腰が引けていた。
僕はブルーローズが虎徹さんのことを好きだと知っていたし、虎徹さんも彼女の気持ちに気付いている。

「……タイガーと、付き合ってるの?」
「…………ええ」
「いつから?」
「去年の、クリスマスからです」
「……そっか、そうだったんだ……」

二人の間に再び沈黙が訪れた。
何を話せばいいのだろうか、彼女に掛ける言葉なんて何も思い浮かばない。

「ねぇ、バーナビー」
「はい」
「私も、タイガーにチョコレート渡してもいいかな?」
「それは……」

僕は返事に困ってしまった。

「タイガーはきっと、私が本気だと知ったら受け取ってくれないと思う。でもね、……やっぱり、このまま何も言わずに諦めちゃうのはいやなんだ」

返事はしないまま、黙ってブルーローズの話を聞くことにした。

「友達にもね、相談したの。好きな人がいて、でもその人には恋人ができたみたいで、きっと告白してもふられちゃうって」

……ブルーローズはいつから気付いていたんだろうか。自覚がないだけで、僕たちの態度はそんなにあからさまだったのだろうか。

「……それでもね、友達は告白したほうがいいっていうんだ。そうしないと、いつまでも諦めきれなくて引きずって、新しく他の人を好きになれないって」
「……いい、お友達がいるんですね」
「うん……だから、私もタイガーにチョコレート渡すね」
「……はい」

僕は微笑んで、頷いた。



 
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