Chocolat
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帰宅前にスーパーへ寄り必要な材料を買い揃え車に戻る途中、花屋のワゴンが視界に入った。
いつもはこんな所にワゴンなんていないのだが、今日はバレンタインだからだろう。
そういえばバーナビーへの贈り物も用意していない。俺はワゴンを覗いてみることにした。

「いらっしゃいませ。どんなお花をお探しですか?」

バーナビーにはどんな花が似合うだろうか。一瞬考えたけれど考えるまでもなく、これしかないだろうと思った。

「赤い薔薇、全部もらえる?」

ワゴンにある数十本の薔薇の花を買い占めて、俺の懐は淋しくなったが心は晴れやかだった。
赤い薔薇の花束なんて俺には似合わないけれど、バニーちゃんには厭味なほど似合うに違いない。

スーパーの袋と薔薇の花束を抱えて帰宅した俺は、テーブルの上に花束を置き早速夕飯の支度に取り掛かった。
バーナビーはチャーハンを食べたいと言ってくれたからチャーハンは作るけど、それだけでは物足りない。
実家に戻っていた間、お袋になかば無理矢理増やされた数少ないレパートリーの中から、チャーハンに合いそうなかに玉を作ることにした。
ボールに卵を割り入れ、鳥がらスープの元とカニ缶と刻んだネギを加えて軽く混ぜ、温めて油を引いたフライパンに流し込む。
強火で焼きながら菜箸で軽く混ぜ、そのまま放置して固まってきたらフライ返しでひっくり返して反対側も焼く。
うまく焼けたそれを皿に取り出して、上にかけるあんかけもそのまま同じフライパンで作ってしまい上からかけてラップをした。
それからチャーハンに取り掛かる。
ふと時計に目を向けると、時刻は7時だった。そろそろバーナビーも仕事が終わった頃だろうか。







話は数日前に遡る。
虎徹に手作りのチョコレートをプレゼントすることに決めたバーナビーだったが、バーナビーにとってお菓子作りは未知の領域だった。
虎徹のためにチャーハンをマスターしてから少し料理に興味を持ち、料理には何度か挑戦してみたのだが、今は忙しさにかまけて外食やケータリングばかりで買い揃えた調理器具にはほこりが積もっている有様だ。
まずはネットで調べてみることにして、チョコレートのレシピを検索してみた。
チョコレートのレシピを載せているサイトは数多くあり、まずは上から順に目についたサイトから目を通してみる。
一言にチョコレートのレシピといっても、様々なものがあった。
ハート型のチョコレート、トリュフ、チョコレートケーキ、チョコクッキー、他にも色々。
選ぶことができなくて、今度は難易度別に書かれているサイトにも目を通してみた。初心者向けのレシピのコーナーにはトリュフや生チョコが載せられている。ハート型のチョコレートは意外なことに中級者向けだ。
まずは初心者向けのレシピに挑戦してみようと材料や作り方に目を通すと、まずは道具が揃っていないことに気が付いた。
調理用の温度計なんて持っているわけがない。どこで買えるのかもよくわからなかった。
だが都合のいいことに明日はハウスキーパーが入る日だ。掃除をしてくれるのがメインだが、簡単な買物も頼めばしてくれる。
バーナビーは買物リストを作り、ハウスキーパーに買物を頼むことにした。

翌日の帰り、虎徹に食事に誘われた。
付き合うようになってからは週に半分以上は虎徹と一緒に食事をしている。食事の後はどちらかの家へ泊まりに行くことも多かった。
今では互いの部屋に互いの歯ブラシとパジャマが常備されている。
その日も食事の後、泊まりに来ないか、と誘われた。
けれど僕は、帰ってチョコレート作りに挑戦したかったので残念だけど辞退することにした。

初めてのトリュフ作りの結果は散々だった。
ハウスキーパーは頼んだ道具や材料を用意してくれていて、僕は嬉々として取り組んだのだが何か材料を間違えたのか、ドロドロの液状になってしまったチョコレートは何時間冷蔵庫で冷やしてみようが固まらない。
夜遅くまで粘ってみたが、結局その夜はトリュフを完成させることができなかった。

さらに翌日。この日の夜も僕はまっすぐに帰宅し、トリュフは諦めて生チョコ作りに挑戦した。結果はまたもや玉砕だった。
その次の日も、そのまた次の日も、僕はチョコレート作りに挑戦した。結果はことごとく失敗に終わり、しかしそれでも毎日時は過ぎていく。
バレンタインまで、もうあまり日にちがない。
そんな中、たまたまブルーローズとドラゴンキッドとトレーニングルームで会う機会があった。
僕は虎徹さんと一緒のことが多いし、こんな組み合わせで出会う機会は本当に珍しい。
視線が合うとドラゴンキッドはトレーニングの手を休め僕に近付いてきた。

「バーナビー、一人なんて珍しいね!タイガーは?」
「ああ、虎徹さんはスーツのテストとかで斉藤さんに呼ばれてまして」
「そうなんだー」

ふと、こちらを見ていたブルーローズとも視線が合った。
僕はブルーローズが虎徹さんのことを好きだということを知っている。
誰よりも虎徹さんを見ていた僕だから、同じくらい虎徹さんのことを見つめていた彼女に気付かないわけがなかった。
僕と虎徹さんがそういう関係になったことを知る人はまだ少ない。ヒーローの中では、ファイヤー・エンブレムさんとロック・バイソンさんにしか伝えていない。
だからブルーローズも僕ら二人のことを知らないはずだった。
でも、もしかしたら気が付いているのかもしれない。



 
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