Chocolat
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「で、その包みは?」
「変なものじゃないわよ、チョコレート。今日、バレンタインだから……」
「て、あれ……?今日が、バレンタイン?」
「そうよ、タイガー、もしかして忘れてたの?」

ブルーローズに言われて、俺は初めて今日が2月14日だということを知った。
なんでもないふりで毎日を過ごしていたが、日付感覚もなくなるほどに俺は抜け殻になっていたらしいと、この時初めて気が付いた。
……とにかく、未だ事態がはっきりと飲み込めないままだが、今日はバレンタインで、俺は今ブルーローズに告白されて返事を迫られてるってことだ。
それは理解できた。
今までの俺ならのらりくらりとはぐらかして済ませていたかもしれない。
でも俺はきっちりとブルーローズに向き合うことにした。
正直、断って泣かれたりしたら辛い。俺はそういう意味ではブルーローズのことを好きにはなれないけれど、それでも仲間としては好きだから。

「……ごめん、それ受け取れねぇわ」

そう答えると、ブルーローズは差し出していた包みをあっさりと引っ込めたので俺は拍子抜けした。
気の強いブルーローズのことだから、そんな簡単引かないだろうと思っていたのだ。
俺に差し出していた包みをカバンの中に戻すと、ブルーローズはにっこりと笑ってすらみせた。

「ありがとう、タイガー。……理由を聞いてもいい?」

なんて答えようか正直迷った。
以前の俺ならば、お前はまだ子供で俺にはそういう対象として考えられない、とか答えたのかもしれない。
あるいは、俺みたいなおじさんのどこがいいんだ、他にいい奴がいるだろ、なんてはぐらかしたかもしれない。
でも、俺は正直な今の気持ちを答えることにした。

「好きな奴がいるんだ」

誰、とは言わなかった。でももしも相手が誰かと聞かれたらバーナビーが好きだと答えようと思った。

「そっか」
「ああ」

もしかしたらブルーローズは全てを知っているのかもしれない。
そう感じた俺の直観は正しかった。

「……タイガー、変ったね。バーナビーのおかげ、なのかな」
「ブルーローズ……」
「ごめん、タイガー。バーナビーが話してくれたの。すごくびっくりしたけど、でも、私はタイガーのこともバーナビーのことも好きだから……二人とも、大好きだから……」
「うん、ありがとな、ブルーローズ」

途中からブルーローズの瞳はみるみる潤んで目の端から涙が零れ始めた。
目の前で女の子に泣かれたりしたら慌てるかと思ったけど、俺は意外と冷静だった。
抱き締めて頭を撫でる、なんてバカなことはせず、ブルーローズが落ち着くまでただ傍らで待ち続けた。

しばらくしてすっかり落ち着いたブルーローズと、俺は駅まで並んで歩いた。
聞けば、これからネイサンやドラゴンキッドと一緒に女子会なのだという。
おいしいものいっぱい食べて、慰めてもらうんだってブルーローズは笑った。

「あ、そういえばタイガー、どうして私がバーナビーのことが好きなんて勘違いしたの?」
「そりゃ、お前がバーナビーのマンションから出てくるとこ見たから……」

うっかり口を滑らせてしまい、しまったと思った。これじゃまるで、俺がバニーのストーカーみたいだ。

「べ、別に見張ってたってたとかそういうんじゃねぇよ?たまたま……」
「あっ、やだ、見られてたんだ」

俺は慌てて補足しようとしたが、ブルーローズはあまり気にしていないようだ。
それよりブルーローズの言葉の続きが気になった。

「たしかに、バーナビーの部屋には行ったけど、私一人で行ったわけじゃないからね?ドラゴンキッドも、ドラゴンキッドの保護者の人も一緒だったし」
「そう、なのか?」
「私は仕事があって先に帰ったんだけど、いくら相手がバーナビーだって男の人の部屋に一人で行ったりしないよ」

それを聞いて俺は心底ほっとした。

「あ、けど、あいつん家に何しにいったんだ?」

俺がそう尋ねた途端、ブルーローズは慌てて視線を彷徨わせた。

「あー、えっとね……それは直接バーナビーに聞いて!今日はありがとう、タイガー。またね!」
「ちょ、ブルーローズ……!」

駅に向かって走って行ってしまったブルーローズに置いてけぼりをくらい、俺はその場に立ち尽くした。
が、ほどなく携帯が鳴り始めて慌てて携帯を取り出した。
液晶に表示された名前を見るとバーナビーからの着信だった。

「どこにいるんです?虎徹さん」
「あー、駅、だよ」
「今日何の日か、覚えてますよね?」

すっかり忘れていた、というか今日がバレンタインデーだということについさっき気付いたわけだがそれをなんとか誤魔化した。

「いや、あー、勿論!俺がバニーちゃんとの約束忘れるわけないじゃん」
「……まぁ、いいですけど。今日は7時くらいには仕事終わりそうなんです。仕事が終わったらどこで待ち合わせますか?」

そういえば俺は、バレンタインにバーナビーをデートに誘ったのだった。
そんなことはすっかり忘れていた、というかここ数日それどころではなくて何も準備などしていない。
……全部俺の勘違いだったわけだけど。
どうすればいいだろうか、バレンタイン当日の今からじゃレストランの予約なんてできるわけがない。

「あ、あのな、バニー……」
「もし虎徹さんさえよかったら、虎徹さんのチャーハンが食べたいです」
「え、そんなんでいいの?」

正直バーナビーの申し出はありがたかった。
それともバーナビーは俺がなんの準備もしていないことなんてお見通しなんだろうか。

「はい、虎徹さんの部屋でゆっくりしたいです」
「ああ、わかった。そんくらいお安い御用だ。チャーハン作って待ってる」
「はい、楽しみにしてます。じゃあ、また後で」



 
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