Chocolat
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俺はもう、友恵以上に愛せる人になんて巡り合えるわけがないと諦めていた。
友恵のことは今も好きだし、それはきっとこれから先も変わらない。
そんな俺の前に現れたのがバーナビーだった。
友恵とバーナビーとどちらが好きか、なんて俺には選ぶことはできない。
二人とも大好きだし、二人とも大切だ。
そんなふうに思える相手に巡り会えて、俺は本当に幸せだと思っていたのに。





ある程度歳を重ねてしまうとポーカーフェイスなんてお手のもので、俺は翌日もその次の日も、いつもと変わらず出勤し、いつもと変わらずバーナビーと接した。
バーナビーが俺に向ける笑顔はふわりと柔らかく、こいつはまだ俺のことが好きなんじゃないかとつい錯覚してしまう。
でも、バーナビーが好きなのはブルーローズなのだ。
いつからかは気付かなかったけど、そうでなければブルーローズがバーナビーのマンションから出てきたことの説明がつかない。
二人がそういう関係でなければ、真面目なあのブルーローズが一人暮らしの男の部屋なんかに一人で行くはずがない。
大体、ブルーローズは俺のことが好きだったはずなのに、いつから心変わりしたんだろうか。
そりゃ、俺みたいなおじさんよりバーナビーのほうがずっとお似合いだしわかる気もするけれど……それでも二人のことを受け入れるには相当時間がかかりそうだ。

別れ話を持ち出されるのが怖くて、俺は極力バーナビーのことを避けていた。バーナビーも忙しいらしく、俺がバーナビーのことを避けているのに気付いていないようだった。
そんな中、トレーニングルームで顔を合わせたブルーローズに話があるから後で二人で会えないか、と声を掛けられた。
俺はわかった、と返事をした。
トレーニングには身が入らす、早々に切り上げてシャワーを浴びて身なりを整えた。
ブルーローズには俺とバーナビーが付き合っていたことを話していない。もしかしたらバーナビーから聞いているのかもしれないが、そんなことはどうだっていい。
ブルーローズは俺にどんな話をするんだろうか。
バーナビーと付き合うことになったっていう報告?
とうとうその時が来るのか、俺は覚悟を決めてブルーローズの元へと向かった。

ブルーローズと待ち合わせをしたのは、ジャスティスタワー近くのカフェテラスだった。窓際の席に腰かけるブルーローズの姿を見つけ、俺は席へと近付いた。

「よぉ、悪い。待たせたか?」
「ううん、平気。来てくれてありがとう」

伏せていた顔を上げて、俺の目を見て微笑んだブルーローズはかわいかった。
そう、ブルーローズはとってもいい子だ。
ずっと歌手を目指してて、最近は歌手としても成功し始めているのにヒーロー業もしっかりこなしていて、その上現役高校生で、本当に頑張り屋でいい子なのだ。
……時間はかかるかもしれないけど、ブルーローズとバーナビーのことを心から祝福してやりたいと思う。

「あのね、せっかく来てもらったんだけど、ここじゃ話し辛いから……、外、出てもいいかな?」

確かにこの店は待ち合わせにはいいが、話しをするとなると隣の席との距離が近くあまり落ち付かなそうだった。
俺たちは店を出て、近くの公園へと向かうことにした。

外は生憎の天気で、今にも雨か雪でも降ってきそうな、まるで今の俺の心境を表してるかのような重い空の色をしていた。
コートを着ていても肌寒い。
学校帰りなのか制服姿のブルーローズは、コートは着ているがどう見たって寒そうで、俺はそのままを口にした。

「おまえ、そんな格好で寒くねぇの?」

振り返ったブルーローズの鼻の先っぽは赤くなってて、俺は思わず笑みが零れた。

「寒いわよ、寒いけど、平気。慣れてるから」

そう笑ったブルーローズは、自分のカバンの中をごそごそと漁りだした。
中からかわいくラッピングされた包みを取り出して、俺に向けてずいっと差し出してくる。

「ふぇ……?」

事態がよく飲み込めなくて戸惑う俺に、ブルーローズは顔を伏せたまま顔を真っ赤にしてこう言った。

「あの、ね、私、タイガーのことが好きなのっ!オリエンタルタウンではバレンタインに女の子が告白するんでしょ?」

差し出された包みを受け取れないまま、俺は固まった。

「え、だって、お前が好きなのはバーナビーなんじゃ……」
「はぁっ!?なんでそうなるの?私はタイガーが好きなんだってば」

ブルーローズが嘘を言っているようには見えなかった。
だけど、てっきりブルーローズとバーナビーが付き合ってるんだと思い込んでいた俺は予想外の展開についていけず、まずは大きく深呼吸して気持ちを落ち着けることにした。
ブルーローズが俺を好きだという。
ブルーローズに好意を向けられてるのはずっと前から気付いていたけれど、俺にとって娘と6歳ほどしか違わないブルーローズは子供みたいなもんで、どうしたってそういう対象としては見れなかったのでずっと気付かないふりを貫いてきた。
こうして面と向かって好きだと言われたこともなかったし、いつか気持ちも冷めるだろうと思っていたんだが。



 
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