Chocolat
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近頃、バニーちゃんがつれない。
仕事中は以前と変わらずフレンドリーに接してくれる。
でも、目の下にはクマができていてあまり眠れていないようだし、悩みがあれば聞くと申し出ても悩みはないと言われてしまう。
仕事の後で食事くらいは付き合ってくれるけど、泊まりに行っていいかと聞くとだめだと言う。家に泊まりに来ないか、と誘ってもだめだと断られる。
理由を聞くと仕事が忙しいからと言われてしまい、それじゃ仕方ないな、と俺は引かざるをえない。

クリスマスの夜に、俺とバーナビーは一線を越えた。
バーナビーが女の身体になってしまうというハプニングはあったけれど、ああいうことをしてしまったのは決して流されたとかそういうことじゃない、と思う。
俺は前からバニーのことが気になっていたし、バニーに対して劣情を抱いたことだってある。
好きか嫌いかで言えば間違いなく好きだし、特に一線を越えてしまってからはバニーのことが愛しくてたまらない。
……愛しているんだと、思う。
けど、俺たちはあの夜以来そういうことをしていない。
俺はバーナビーに『男に戻ってもセックスしよう』なんてことを言った。あの時は本気でそのつもりだった。
でもその後、男同士に戻ってから初めてバーナビーの部屋で一夜を過ごした夜、一緒にベッドに入ってキスをして、頭を撫でてやってるうちにバーナビーは気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
男同士のセックスなんてどうしたらいいのか、悩んでいた俺は内心安堵してそのまま一緒に眠ってしまった。
それ以来、一緒にベッドに入っても添い寝するだけの関係が続いている。
俺だって男だし、まだ枯れるには若いのでバニーに欲情しないわけじゃない。
バニーの寝顔はかわいいし、バニーからは男のくせに甘いいい匂いがする。
それでも一線を越えられないのは、俺が臆病だからだ。
セックス自体、友恵が身体を壊して入院して以来だから、あのクリスマスの夜にしたのは何年ぶりかのことだった。
そんな俺に、男同士のセックスだなんていきなりハードルが高すぎる。
身近でこんなことを相談できる相手なんて言ったら一人しか思い浮かばないけど、アイツに相談するのだけはできれば避けたいとずっと渋っていた。
でも、そろそろ限界なのかもしれない。
忙しいことを理由にして、バニーちゃんに避けられてる気がしてならない。
いつまでも煮え切らす、手を出さない俺に愛想が尽きたんだろうか。
バニーちゃんとセックスレスが原因で別れるだなんて事態はどうしても避けたい。
俺は覚悟を決めてスマホを取り出し、ファイヤー・エンブレムの番号をダイヤルした。

ファイヤー・エンブレムと飲みに行った話は長くなるので割愛する。
けど、ファイヤー・エンブレムは親身になって話を聞いてくれて、そういうやり方を詳しく説明しているサイトだとか、必要な道具を買える通販サイトも教えてくれて、いわゆるそっち系のブルーレイまで貸してくれた。
家に帰ってブルーレイを再生してみたけれど、俺は最後まで見ることができなかった。
男のあそこに男のアレが出入りして喘いでる姿なんて、勉強のためと思って途中までは我慢したが、どうしたって見たくない。
仕方がないので今度は教えてもらったサイトを見てみることにした。こちらはテキストサイトだったのでそれほど抵抗なく見ることができた。
それからいわゆるアダルトグッズのサイトも見てみた。こういうサイトには独り身が長いので恥ずかしながらお世話になったこともある。でも、アナルセックスに必要な道具なんてさすがにそちらのページは開いたことがない。
ファイヤー・エンブレムが教えてくれたサイトはそっち専門らしく、必要だと思われるものは一通り揃っていた。覚悟を決めてカートに入れていく。
合計すると結構な金額になったが、購入ボタンを押して必要事項を入力し、俺は無事買物を終えることができた。
あとはバレンタイン当日を迎えるだけだ。



ところが、だ。
バレンタインを数日後に控えたその日、珍しく俺単独の取材が入っていて俺は一人で仕事をこなしていた。
午後は出動がなければバーナビーも珍しくオフのはずで、約束はしていなかったが俺は仕事を終えた後、連絡も入れずふと思い立ってバーナビーのマンションへと足を向けた。
部屋に行ってもいいか尋ねても、また断られるような気がしてそれが少し怖かったのかもしれない。
バーナビーの驚く顔を思い浮かべながら、マンションの近くまで行くとマンションから一人の女の子が出てくる姿が見えた。
それは、俺もよく知っている相手だ。思わず身を隠した。

「ブルーローズ……」

俺の頭の中はパニックだった。
なんでブルーローズがバーナビーのマンションから出てくるんだ?
たまたま友達がバーナビーと同じマンションに住んでるなんて、そんな都合のいいことは考えにくい。バーナビーの部屋に行っていたに違いない。
バーナビーとブルーローズが、なんて、そんないつの間に。
もしかして、最近バーナビーがつれないのはそのせいなんだろうか。
セックスレスが原因だなんて、そんなことを考えていた俺はバカみたいだ。

「バニーちゃんとブルーローズ、か……」

二人が並んでいる姿を想像してみた。
悔しいけど、美男美女でどう見たって二人はお似合いだ。
俺の出る幕なんてない。
俺は来た道を引き返し、一人アパートへと帰ることにした。
不思議と腹が立ったりはしなかった。
ただ酷く、悲しかった。



 
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